大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

黒田日銀が固執する異次元金融緩和の間違い 金利を上げれば日本経済は活性化する

日米欧の中央銀行の中で、日銀は唯一、利上げをしていない(イラスト/井川泰年)

日米欧の中央銀行の中で、日銀は唯一、利上げをしていない(イラスト/井川泰年)

 円安が進むなか、日本銀行は異次元金融緩和を継続している。日銀は日米欧の中央銀行の中で唯一、利上げをしていないが、それで日本の景気がよくなるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

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 もともと私はマクロエコノミストの「円安は日本経済にとってプラス」という主張に反論してきた。近年の日本は輸出と輸入がほぼ均衡しているので、為替が円安と円高のどちらに振れても貿易収支にはほとんど関係ないからだ。

 しかし、日本の輸出力は下がる一方で、昨年度は輸出額が85兆8785億円、輸入額が91兆2534億円と貿易収支は2年ぶりの赤字となった。今年度はいっそうの円安とエネルギーや穀物の価格上昇により、赤字拡大が確実な情勢だ。

 この円安を加速させているのは日本銀行の黒田東彦総裁だ。いま米欧の中央銀行はインフレを抑制するために相次ぎ政策金利を引き上げている。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は6月に0.75%の大幅な利上げを行ない、7月1日に量的緩和政策を終了したECB(欧州中央銀行)も同21日の理事会で0.25%の利上げを決める予定だ。昨年12月から利上げを続けているイングランド銀行は、5月も0.25%引き上げて年1%にした。

 だが、日銀は日米欧の中央銀行の中で唯一、利上げをしていない。6月の政策決定会合でも異次元金融緩和の継続を決め、その理由について黒田総裁は「金利を上げると、あるいは金融を引き締めると、さらに景気に下押し圧力を加えることになる」「それは日本経済がコロナ禍から回復しつつあることを否定してしまう、経済がさらに悪くなってしまうということにほかならない」などと、いつもの“逃げ口上”に終始した。

 しかし、この理屈は正しいのか? 「NO」である。黒田総裁は20世紀のケインズ経済学を勉強したマクロエコノミストだから、いまだに昔の理論を基に金利を引き上げると景気が悪くなると考えているわけだが、それは間違っている。

 今の日本のように個人金融資産2000兆円の半分超が預金・現金で保有されている貯蓄過剰の国では、ケインズ経済学は成り立たない。いくら異次元金融緩和でゼロ金利政策を続けてお金をジャブジャブにしても、貯蓄が増えない上に「低欲望社会」だから金融資産を持っている富裕層や「人生100年時代」と脅されている高齢者の財布は締まったままで消費が拡大しない。現に、黒田日銀が異次元金融緩和を始めてから9年余も経過しているのに、景気は全く上向いていない。

 では逆に、金利を引き上げたらどうなるか? 貯蓄が増えるから、金融資産を持っている人たちの財布の紐が緩んで消費が拡大し、経済が活性化するのだ。

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