大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「スタートアップ」「GX」…看板倒れの「担当大臣」を濫造する政府は“ダメ組織”の典型

 とにかく担当大臣は兼務する分野がカオス状態で、何が何だかさっぱりわからない。なぜ、こんなことになっているのか? 役所が本来やるべき仕事をしていないからである。首相は「こういう政策で新しい看板を立てたい」と思ったら、その分野を所管している役所と協議し、弱い部分があればそこを重点的に強化すればよいのである。役所の側も、足りないところは担当課長を置くなりして強化するので自分たちにやらせてほしい、と言うべきである。それをしていないから担当大臣が濫造されているのだ。

 たとえば、規制改革担当と行政改革担当を兼務しているのは岡田直樹・地方創生大臣だが、これまでどちらの改革も全く進んでいない。すでに消えた「1億総活躍」「働き方改革」などの担当大臣がどんな成果を上げたのかについても検証されていない。要するに、首相が代わるたびに新しい看板を並べ立てているだけで実績は何もないのだ。まさに「看板倒れ」である。

 私は、企業経営に関して「優れた経営者は1つのことだけを言う」「ダメ経営者は次から次へと新しい命令を出して結局、何もできない」と指摘してきた。“ダメ経営者”の下では、いくら部署を新設しても企業は成長しないばかりか、従来の部署で働いていた社員がスポイルされてやる気をなくしてしまうのだ。すなわち、今の政府は“ダメ組織”の典型なのである。

 では、どうすればよいのか? 解決策は2つしかない。1つは、企業経営と同じく、組織が機能するように徹底的に鍛え上げること。もう1つは、緊急対応すべき政策ごとに、世界で実績がある突出した人物1人、企業1社を招聘し、全権を与えて結果が出るまですべてを任せることだ。余人をもって代えがたい人材に全責任を与えてこそ解決の道が見えてくる。逆に言えば、「私は聞く力がある」「みんなで知恵を合わせよう」などと宣って責任を取らないトップがいる会社は、最悪の結果を出すだけなのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年9月9日号

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