大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

「1人あたり1000万円超」の借金大国・日本 財政を健全化する方策は2つしかない

政府がやるべき2つのこと

 なぜ日本政府は、これほど野放図に借金できるのか? アベノミクスと異次元金融緩和を継続し、日本銀行が事実上の財政ファイナンス(財政赤字を穴埋めするために中央銀行が国債などを直接引き受けること)を行なっているからだ。しかし、これまた「出口」はない。

 欧米の中央銀行がインフレ抑制のため利上げを進める中、日銀の黒田東彦総裁は今の異次元金融緩和を続けたまま来年4月の任期を終えるのだろうが、「出口戦略」を示すことなく退任するのは無責任極まりない。

 一部のリフレ派【*1】やMMT【*2】論者は、国債を買っているのは海外マネーではなく主に国内の銀行や生命保険会社で、国の借金の半分は銀行や生保から国債を買い入れている日銀の資産なので問題ないと主張している。だが、銀行や生保は預金者や契約者から預かったカネで国債を引き受けているのだから国民が国債を買っているのと同じであり、結局、この借金を返していくのは国民──今の若者たちであり、これから生まれてくる子供たちなのである。

【*注1:リフレ派/積極的な金融緩和を通じて景気の回復と緩やかな物価上昇を促す経済政策「リフレーション」を支持する学者やエコノミスト】

【*注2:現代貨幣理論/自国通貨を発行できる政府・中央銀行は、財政赤字を拡大してもデフォルト(債務不履行)になることはないという理論】

 日本が経済を立て直して財政を健全化する方策は2つしかない。1つは、ガソリン補助金や詐欺の餌食になった新型コロナウイルス対応休業支援金・給付金のような無駄遣いをしないこと。もう1つは、国債の償還を借り換え・繰り延べでごまかして負担を子や孫に先送りしないことだ。

 私はかつて引退したロンギ氏に会いにニュージーランドまで行ったことがある。「あなたはニュージーランドにとって偉大な恩人だ」と称賛したが、彼は「国民は誰も私に感謝していないし、今や私を覚えてもいない」と落胆していた。ロンギ氏は最後はバッシングされ、石もて追われた。サッチャーもレーガンも同様だった。しかし、次世代で経済が好転し、結果的には改革が高く評価されている。

 翻って、愚策だらけの「新しい資本主義」では、日本経済を立て直して財政赤字を改善することはできない。借金という十字架を背負って生まれてくる赤ちゃんのことを考えず、次の選挙のために予算をバラ撒く悪習は、直ちにやめてもらいたい。さもなければ、もし岸田政権が次の国政選挙まで3年続いたとしても、それは日本経済にとって「黄金の3年」ではなく「暗黒の3年」になるだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2022-23スペシャル』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2022年9月30日号

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