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資本主義の根幹である「借金」が生み出す支配/被支配の構図 それは人類に突きつけられた「呪い」なのか

カネの貸し手は借り手をコントロール下に置くことができる(イメージ)

カネの貸し手は借り手をコントロール下に置くことができる(イメージ)

借金が生み出す支配・被支配

 さて、と同時に、借金というものは、貸す者と借りる者に〈貸し/借り〉の関係を繰り出す。この関係ができた時、〈貸し手が借り手をコントロールする〉という力関係もまた潜在的に生まれる。貸し手にとっては踏み倒し(借り手の返済能力)のリスクがあるので、これを回避するために(という建て前で)、担保を取る。あるいは返済期間や利息など、なんらかの条件をつける。

 かつて、これがもっともダイナミックに行われていたのが戦時下だ。第一次世界大戦以降、戦争は総力戦でなおかつ、持久戦になった。なので、戦費は膨大な額になる。国家は国民から税という形で吸い上げるなどして賄うのだが、これにも限度がある。そうすると国は借金するしかない。しかし、戦争で負けるとその国は焼け野原になる。負けるかもしれない戦争当事国の通貨でモノを売ってくれる国はなくなる。つまり戦争当事者国の通貨は価値を失うわけだ。

 それでも「貸すよ」と言ってくるのは、“ワケあり”の連中だけだ。その手の機関から他国の通貨建てで借金するということは、その国は他国のコントロール下に入ってしまう危険性が高くなることを意味する。また、負けたあとはスッカラカンになるので、この時は確実にそうなるだろう。

 戦争がなくても、財政が破綻すれば、国は借金をしなければならなくなる。すると借金漬けにしたくてうずうずしていた機関が「貸してやる。ぜひ借りろ、その代わり……」と声をかけてくる。この時の条件で大事なのは、「何年で返せ、利子はいくらだ」なんてものではない。いちばん怖いのは「俺たちに都合のいいように国の制度や法律を整えろ」である。

 さらにもっと言えば、混沌や混乱さえあれば、借金は作ることができる。たとえば感染症パニックがそうだ。通貨の対外的価値が急激に下がる通貨危機でもいい。貸し手の“救済”により、やがて混沌や混乱が収まると、新しい秩序が生まれ、“アフター○○”時代に入る。しかし、そのときには混沌や混乱によるおびただしい犠牲者が出ていて、〈支配する/支配される〉の関係が築かれているのである。

 ここで、もういちど考えてみよう。お金は、人間が作り出したものだ。なぜ人間はお金を作り出したのか。お金があったほうがなにかと便利だからだ(保存は利くし、何とでも交換できるetc.)。おそらく人間は当初じょうずにお金をコントロール(支配)していたのだろう。しかしやがて、人間は、手段であったはずのお金を目的と取り違えるようになり、お金に支配されるようになった。そして借金という形をとって、人間が人間を支配しコントロールする道具としてお金が使われるようになった。

 他者を支配したい、コントロールしたいという抜き差しならぬ欲望が人間にはある。そして、それが実現可能となったとき、この欲望を抑えることはとても難しい。これはお金を生みだした人間に逆に突きつけられた大問題、ある種の呪いではないかと僕は思っている。現在、実質的なデビュー作『エアー2.0』の続編となる『エアー3.0』を構想中だが、是非このことを織り込んで書いてみたい。

【プロフィール】
榎本憲男(えのもと・のりお)/1959年和歌山県生まれ。映画会社に勤務後、2010年退社。2011年『見えないほどの遠くの空を』で小説家デビュー。2018年異色の警察小説『巡査長 真行寺弘道』を刊行し、以降シリーズ化。『DASPA 吉良大介』シリーズも注目を集めている。近刊に真行寺シリーズのスピンオフ作品『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』、『相棒はJK』シリーズの『テロリストにも愛を』。刑事稼業のかたわら女優もする『アクション 捜査一課 刈谷杏奈の事件簿』など。現在、2015年に発表され話題となった、3.11後の福島の帰宅困難地域に新しい経済圏を作る小説『エアー2.0』の続編『エアー3.0』を現在構想中。

 

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