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「どうして誰もわからなかったの?」英女王がリーマン危機直後に経済学者に向けた疑問とその回答

女王の率直な疑問に経済学者らは慌てた(Getty Images)

女王の率直な疑問に経済学者らは慌てた(Getty Images)

 在位70年、96歳で死去したエリザベス女王。イギリス君主としては歴代最長となった在位期間中、折に触れて数々の名言を残している。曰く、「私にできることは、この古き良き国に生きるすべての人々に、私の心と献身を捧げることです」(1957年のテレビ出演時)、「私は、皆さんとともに彼女の思い出に寄り添い続けます」(1997年のダイアナ元妃の事故死を受けて)など……。ここでは、金融・経済を題材にした小説『エアー2.0』『マネーの魔術師 ハッカー黒木の告白』などを手がけてきた小説家・榎本憲男氏が、女王が2008年の金融危機(リーマン・ショック)直後に経済学者らに発した有名な疑問を紹介するとともに、その意義について改めて考察する。

 * * *
 エリザベス女王の崩御は、本年の大きな事件として記憶されるだろう。女王は2008年、世界最古の経済学の研究教育機関、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の新校舎の落成式に出席し、教授陣たちを前にしてこう言った。

「どうして誰も危機が来るのをわからなかったの?」

 どういうことだろうか。実はこの2008年に、アメリカの住宅ローンを中心とする金融債券市場が崩壊し、イギリス経済もそうとうな痛手を被った。エリザベス女王のこの発言は、この惨事を踏まえたものだ。あえて超訳すると「あなたたち、なんのために経済学やってるの。しっかりしなさいよ」となる。となると、言われた経済学者らも、ただ心の中で舌を出して苦笑しているわけにはいかない。なにせ相手はエリザベス女王なのだ。翌年、彼らは女王への公開書簡(*)を発表した。

【*/Tim Besley and Peter Hennessy, (2009). Letter to the Queen.】

 さて、超一流の経済学者はなんと言い訳したか。ざっくり言うと「ここのリスクは小さいと判断していましたが、全体のリスクは膨らんでいて、この危機を察知することができませんでした」と言っているようだ。しかし、これはどう考えても変な話である。そもそもマクロ経済学というのは全体を見るからマクロという名前がついているはずだ。それで、経済学のど素人の僕が彼らに代わって女王に回答させていただくと、以下のようになる。

【1】危険を察知してはいましたが、ダンマリを決め込んでいたのです。
【2】経済学というのはそもそも無理ゲーなのです。

 ふたつは関連するのだが、今回は【1】について述べたいと思う。

 もし【1】が正答ならば、そもそもエリザベス女王が尋ねるべき相手は、目の前の経済学者たちではなかったということになる。たとえ、真実だとしても、自らの悪行を告白するようなことを、経済学者らは口が裂けても言わないだろう。

 認知科学者の苫米地英人氏は「経済学は大銀行家に隷属する学問だ」と言っている(『日本人だけが知らない戦争論』)。同書の中で著者は、ヨーロッパの大銀行家が大儲けするためには経済的自由主義がよろしいと宣伝する必要があり、そのためのスポークスマンが経済学者だったと指摘している。中央銀行が貨幣発行権を握るころからの伝統がいまも生きているのなら、銀行が仕掛けている“金融市場のカジノ”のホットな熱を冷ますようなことを経済学者が言うはずがない、ということになる。

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