大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

大前研一氏が考える原発再稼働への条件「福島原発事故の総括」「運営電力会社の一元化」

国が主導して「日本原子力会社」に一本化を

 次の条件は、原発を運営する電力会社の「一元化」である。1950年代から原子力政策の旗振り役だった中曽根康弘元首相によると、当初、政府は国民の“核アレルギー”をなくすため各電力会社に原発を持たせることにしたという。その意味は理解できるが、それが今は大きなマイナスになっている。

 福島第一原発事故後、原子力はマイナーになったため、東京電力と関西電力以外の電力会社では原子炉の専門家が少なくなり、万一、事故が起きた場合のリスクが極めて高いのだ。

 しかも、電力会社の経営陣は原子炉について無知である。私は福島第一原発事故後、各地の原発を視察・調査したが、大半のトップは原子力の門外漢で専門知識がなく、原子炉について質問し始めると担当者を呼んで説明させた。そういうトップでは、もし原発事故が起きたらパニックに陥ってしまうだろう。

 原子炉の設計・建設と運用は非常に特殊な知識と技術が必要だが、前述したように、どの電力会社も原子力関係は人材難になっている。したがって、国が主導して「日本原子力会社」に一本化し、そこに各電力会社と原発メーカー3社(日立製作所、東芝、三菱重工業)のエキスパートを集約して経営体と運用体を一元化しなければならない。

 さらに、高圧直流送電(HVDC)網を全国に構築し、その運営会社も全国一本化する。高圧直流送電は送電ロスが少なく、長距離でも大量に送電できる上、周波数が異なる系統の連系(接続)にも適していることが特長で、日立製作所の子会社・日立エナジーがABBから買収した技術を保有している。高圧直流送電網の運営会社を一本化すれば、東日本は50ヘルツ、西日本は60ヘルツという周波数の違いに関係なく、北海道から九州まで1時間半ほどある“時差”を活用して地域間で電力を融通し合うことが簡単にできる。

 また、海外からの電力供給も可能になる。たとえば、極東ロシアで発電してもらい、サハリンやウラジオストクなどから電力を海底送電ケーブルで“輸入”する。太陽光発電なら、オーストラリアのグレートサンディ砂漠や中国のゴビ砂漠などが有力候補だ。これらのボーダレスな高圧直流送電網を「エネルギー安全保障」と位置付けて早急に整備すべきである。

 一方、配電会社は重複投資を避けるために地域独占でよい。そこに再生可能エネルギーや火力発電からの電力を供給し、発電機構別に競争が起きるようにする。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点 2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年1月27日号

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