ゼロコロナ政策を撤廃し、感染爆発が続く中国で、延べ21億人が移動するという「春節」がやってきた。彼らにとって、医療先進国・日本の薬局は宝の山だった。
〈大変申し訳ありませんが、現在品切れしています〉
1月初旬、福岡県のある薬局では風邪薬の棚にこんな札がかけられ、陳列スペースがぽっかりと空いていた。
「解熱鎮痛薬や咳止めの人気が高く、在庫がなくなってしまいました。あまりの売れ行きに『1人2個まで』と購入制限をかけたのですが、焼け石に水の状態です」(店員)
昨今、全国的に解熱鎮痛剤や風邪薬の品薄が続いている。ひとつの要因は、新型コロナの再拡大とインフルエンザの流行が重なり需給が逼迫したことだ。2020年に発覚した製薬会社「小林化工」の医薬品不正製造問題などにより、ジェネリック医薬品の品薄が長期化したことも背景にある。だが最大の理由は別にあるという。薬剤師の長澤育弘氏が指摘する。
「昨年末から中国国内でコロナの感染爆発が生じ、現地の薬局で風邪薬や解熱鎮痛剤が一気に買い占められた。国内で市販薬が買えないことに焦った一部の中国人は、在日中国人や日本の知り合いに頼んで薬局で親戚全員分の薬を買ってもらい、本国に送付させています。
さらにゼロコロナ政策の撤廃で中国からの訪日客が増え、日本で直接市販薬を買うことができるようになった。結果、国内の薬局で在庫切れが続出しているのです」
この言葉通り、中国では壮絶な薬の奪い合いが繰り広げられている。北京市在住の日本人男性が語る。
「感染した知人の中国人女性から『薬が手に入らない。頼むから分けてくれ』と懇願されて、日本から持ってきていた解熱鎮痛剤を知人に渡しました。ネット通販もことごとく売り切れており、病院の前で転売している人もいると聞きました」