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日本企業の「賃上げラッシュ」 初任給大幅増の背景に外国企業との人材奪い合いも

熊本に工場を建設中のTSMCは高給で知られる(時事通信フォト)

熊本に工場を建設中のTSMCは高給で知られる(時事通信フォト)

 社員にすれば賃上げに渋かった会社がいきなり大幅昇給を言いだしたのだから、耳を疑いたくなるのも無理はない。『経済界』編集局長の関慎夫氏が賃上げラッシュの理由をこう指摘する。

「国際比較で日本の賃金は先進国のなかで低く、この間の円安でただでさえ安い給料がさらに際立った。インフレで賃上げが相次ぐ米国では、2021年のグーグル社の親会社アルファベットの従業員の年収(中央値)は29万5884ドル、フェイスブックを運営するメタは29万5785ドルで日本円に換算するといずれも年収3800万円前後。

 日本のIT企業の賃金水準は国内では高いが、米国などとは比較にならない。世界で競争するためには、給料を上げないと優秀な人材が外国企業に流れてしまう。それは、どの業界も同じです」

初任給42万円の企業も

 外国企業との新入社員の奪い合いはすでに始まっている。

 熊本に工場を建設中(2024年稼動予定)の世界最大の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)は、今年4月入社の大卒初任給を月給28万円、大学院卒には32万円を提示して1200人の社員を募集しており、「熊本の賃金体系を揺るがせた」と報じられた。

 こうした動きに呼応するかのように、「初任給」を大幅に引き上げる企業も目立つ。

 NTTグループは今年4月入社の大卒初任給を月給25万円へと3万1000円の増額、さらに専門性が高い人材は27万2000円以上に上げる。同様に大和ハウスも2万円増、アメーバブログなどを運営するサイバーエージェントは残業代を含めた初任給を月給「42万円」へと約2割も引き上げるという。関氏が解説する。

「NTTはグループで33万人を超える社員を抱える“日の丸株式会社”の典型のような会社です。そこが初任給を大幅に上げないと世界で生き残っていけないと判断した。日本企業はそこまで追い込まれているのです。

 NTTは今でも新卒の就職人気が高いが、同社が上げたということは、ほかの大企業も今後は人材確保のために追随せざるを得ない。国内の大企業の間でも賃上げ競争が広がっていくと思います」

※週刊ポスト2023年2月3日号

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