中国の超富裕層たちに渋谷・松濤エリアが人気化しているという(写真:イメージマート)
数億円もする物件をポンと一括で購入──。中国人の超富裕層の熱い視線が今、安倍晋三元首相の暮らしていた邸宅がある東京・渋谷の一等地に注がれているという。中国に詳しいライター・廣瀬大介氏が中国系不動産会社に接触した。【全3回の第2回】
* * *
中国系不動産業者のA社は松濤エリアの高級マンションの一室を販売していた。
A社に中国語でDMを送って販売価格を尋ねたところすぐに、「申し訳ありません。こちらの物件は8億円ですが、すでに購入されてしまいました。今は民泊物件が人気でご紹介が可能です」と返信があった。
同じく松濤エリアで2階戸建て物件の広告を投稿していたB社からは、「紹介できますよ! 詳細を説明するので連絡先を教えてください」と返信があった。別のSNSアプリに移動し、連絡を取るとこう対応された。
「松濤の物件は30億円で販売していましたが、すでに売れてしまった。もしよろしければ類似の物件を探しますよ」
こんな具合で、連絡を繰り返しても、「売れてしまった」という返答が多く、なかなか松濤の物件の話に辿りつかない。数億円超の物件が広告を出したらすぐに売れる──信じがたい話だが実際にどのような中国人が購入しているのだろうか。SNSの業者とはなかなか話が進まないので、都内で中国人富裕層向けの高級不動産仲介業を行なう中国人に会って話を聞くと次のように明かした。
「顧客の多くは日本での一時滞在用に5億~40億円の物件購入を希望しています。特に200平方メートル以上の高級マンションが人気で、10億~30億円の物件が売れていきます。
一方、湾岸エリアのタワマンは、大抵が1億~3億円くらい。中国では、“普通の人”が買っている。中国でも超富裕層は賑やかな場所を好みません。そのため閑静な松濤は非常に人気がありますが、とにかくまだ物件数が少ない。古くから住む人が多いこともあって特に土地は不動産業者でも奪い合っている状況です。過去5年、松濤エリアで売りに出された一軒家・更地は20~30件ほどだと思います。このうち6割ほどは弊社の顧客を含めた中国人富裕層が購入していると思います」
この不動産業者は、松濤エリアにはネット上などに上がらない「未公開物件」も多いのだと付け加えた。だとすれば、実態を知るには現地を歩いて確かめる必要がある。
松濤エリアに赴くと、自転車に乗りながら中国語で会話を交わす人を数人見かけたが、表札などからはなかなか住人の実態が掴めない。地元住民に話を聞くと、2年ほど前から中国人が住んでいるというビルがあった。
瀟洒なビルの不動産登記を取ってみると中国名の個人が敷地約150平方メートルの家をローンなしで購入している。その所有者の住所欄には湾岸エリアの高級タワーマンションの一室が記載されていた。従来のトレンドであった海を望む高層階を保有したうえで、それに加えて新たなトレンドになっている松濤にも居を構えたというように見える。
「中国人が多い」という話のあった高級マンションの登記では、今年に入って所有者が京都に住む中国名の個人に変更されている部屋があった。
(第3回へ続く)
【プロフィール】
廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。
マネーポストWEBの関連記事《【仰天レポート】中国富裕層が渋谷の高級住宅地・松濤に熱視線、売りに出された物件の6割を中国人が購入 ローンは組まずに現金払いのケース多数、一部で民泊トラブルも》では、中国系不動産会社のSNS広告に急増する「松濤エリア」の情報や、地元住民が語る民泊の実態などについて詳細に紹介している。
※週刊ポスト2025年7月18・25日号