マッチング後に企業側の都合で突然キャンセル
スキマバイト(スポットワーク)の企業による直前キャンセル問題が新たな局面を迎えている。10月29日、スキマバイトで働いていた神奈川県の大学生が「マッチング後にドタキャンされた」として、飲食店を訴えたのだ。スキマバイトの店側のキャンセルによる未払い賃金は200億~300億円に上ると推定されている。大学生による「1万4000円訴訟」は、巨額補償につながる蟻の一穴となるか。
スキマバイト問題が徐々に社会に認知されてきた一方で、当の企業側が雇用キャンセルの実態を正確に把握していない可能性がある。特に注目されるのが、FC(フランチャイズ)展開する小売りや外食チェーンに加盟する店舗がスキマバイトを採用するケースだ。この問題を追及し、対応を模索する企業からの相談も受けている松井春樹弁護士が指摘する。
「FCは直営店に比べて各店舗のオーナーや責任者の裁量が大きい分、雇い主都合のスキマバイトキャンセルが起きやすい環境です。すでに多くのキャンセルがあり、一部ではFC本部が全体を把握しきれていない状態があると聞き及んでいます」
FC加盟店によるキャンセルがあった場合、FC本部は責任を持って対応する必要があるだろうと松井弁護士が続ける。
「一義的には企業都合のキャンセルによる休業手当の支払い義務はFC加盟店に生じますが、本部には加盟店を統括する責任があることに加えて、“賃金未払い企業”というマイナスイメージによるブランド毀損を考慮したら、過去の未払いについても本部が責任を取るのが無難と思われます。本部が支払いを呼び掛ける、いったん立て替えるなど方法は異なるでしょうが、過去のキャンセル分を含めてワーカーに未払い賃金を払う方向になるべきと考えます」
企業が未払い賃金を支払う際は、申し立てた労働者だけに払う個別対応ではなく、すべてのキャンセルを補償するフル対応になるべきというのが松井弁護士の見立てだ。
「賃金未払いの放置は、ワーカーからの請求がなくとも企業は違法状態と言えます。また未払い賃金の遅延損害金は通常年3%ですが、キャンセルされたスポットワーカーが該当する『退職者』への未払い賃金は年14.6%の遅延損害金が年々積み上がります。これらを考慮すると申し出があった案件だけでなく、すべての案件に早めに対応することが企業の危機管理として妥当であると考えられます」
企業側の反応には温度差も見られるというが、対応にあたり企業にまず求められるのが「全件把握」だ。
「過去に遡って未払い賃金を補償するかどうかは別にして、まず企業はすべてのキャンセル事案を把握する必要があります。しかしタイミーのアプリ上では過去のキャンセル履歴は確認できず、誰がいつキャンセルされたかという情報はスキマバイト事業者しか持っていません。このため企業は事業者にキャンセル履歴を開示してもらったうえで対応を判断することになるでしょう」(同前)
