アンソロピックの新サービス発表から、株式市場は大きな影響を受けている(Hans Lucas via AFP)
2026年2月、Anthropic(アンソロピック)社が公開したAIエージェントによる新サービスをきっかけに、インターネット経由で利用する業務用ソフトウエア(SaaS)企業の株が急落した。この背景はどのようのものか。また、そこから見いだせる日本株の投資チャンスと注目銘柄とは。個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が分析し、解説する。
アンソロピックショックとは何か
2026年2月、Anthropic社の新サービスをきっかけに「業務ソフトはもう要らないのではないか」という空気感が広がり、世界中のソフトウエア株が急落した。複数の海外メディアは、数日間で約2850億ドル規模の時価総額が失われたと報じている。この売りは日本市場にも波及し、SaaS企業だけでなく大手IT企業まで巻き込んだ。しかし中身を精査すると、「SaaSと関係ない企業」まで過剰に売られていることがわかる。
Anthropic(アンソロピック)社が公開した「Claude Cowork」は、これまで人間がソフトを操作してこなしていた業務をAIが丸ごと代行する仕組みである。従来のAIは「聞けば答えるチャット」にすぎなかったが、Coworkはその先を行く。PC内のファイルを直接読み取り、資料作成から保存まで自動でこなす「手を動かすAI」である。
決定打となったのは1月30日だ。GitHubで営業、法務、財務、マーケティングなど11種類の業務プラグインが無料公開された。これによりプラグイン同士が連携し、市場調査からコピー作成、営業リスト作成まで人手なしで一気通貫に処理できることがわかり、全世界に衝撃を与えた。つまりCoworkは、企業が業務ごとに個別契約していたソフトを一つのAIで置き換えうる構造を世界に示したのである。
このことが「SaaSの死」と呼ばれるほど騒がれた理由は、業務ソフトのビジネスモデルそのものがAIに脅かされる未来が予見されたからだ。業務ソフトの多くは「1人あたり月額いくら」のサブスクリプションで稼いできた。AIが人間の代わりに仕事をするようになれば、この売上の土台が崩れる。AIが業務ソフトを丸ごと代替するという恐怖が投資家心理を一気に冷やし、マーケットの悲観は短期間で歴史的な水準に達した。
日米市場への波及と検証銘柄
2月に入り、アメリカのソフトウエア株は一斉に売られた。Salesforce、SnowflakeなどのAI・SaaS関連株、Datadog、MongoDB、Atlassianなどのクラウド・データ管理系銘柄に多く売りが出て、年初の水準から30%を超える下落を見せる銘柄も散見された。下落には決算や景気見通しなどの複合要因もあるが、アンソロピックショックが大きなトリガーとなったのは間違いない。
日本でも、クラウド型名刺管理などを手掛けるSansanが、1月の高値から約48%安となるなどSaaS銘柄が急落した。さらに、SaaS企業だけでなく、事業構造がまったく異なる大手SIer(システムインテグレーター)までもが売り込まれる事態となっている。 今回は、このアンソロピックショックで、「IT関連だから」という理由で大きく売られたと思われる銘柄を見てみよう。こうした銘柄はショックが落ち着けば急反発する可能性もある。
株価はコロナ禍を超える大幅下落
【NEC(6701)】
官公庁向けIT、防衛、宇宙、通信インフラが主力であり、業務ソフトとは事業構造が全く異なる。直近発表された2025年度第3四半期決算では営業利益が前年同期比で大幅増益となり、通期予想も上方修正するなど絶好調である。
AIの分野でも、自社開発のAIエージェントを顧客に実装する側であり、Coworkに仕事を奪われる立場ではなく、むしろCoworkを使いこなして業務を遂行していく立場の企業といえる。それにもかかわらず、1月の高値6036円から直近は4000円を割るまでの大幅下落をしている。ちなみにコロナ禍のときの下落率を大きく上回っており、このパニックがいかに大きな影響を与えたのかが理解できるだろう。
2024年以降の大幅上昇に対する調整や利確などの複合要因はあるものの、国策である「防衛関連」銘柄でもある同社がテーマ売りに巻き込まれているのは、今回のショックの典型例と言える。もしくは、このタイミングでまだ見ぬ悪材料が潜んでいるのか、今後の動きから目が離せない。
