キャリア

どれだけ努力しても「大谷翔平や藤井聡太になれない」ほぼすべての人たちへ

自分の能力が優位性を持つ市場を見つける

 だからといって、ここで「夢を諦めろ」といいたいわけではありません。私の提案は、競争が激しく、勝ち残るのが難しい「レッドオーシャン」を避けて、競争せずに棲み分ける「ニッチ」戦略によって、ライバルが少ない「ブルーオーシャン」に移っていくことです。

 それを実践したのが、「努力の限界効用の逓減」を発見した“天才データアナリスト”ネイト・シルバーです。シルバーは、6歳で野球に夢中になり、打率などを数学や統計で分析するようになりました。大学卒業後は高給のコンサルタントの仕事についたものの、まったく面白くなく、退職してオンラインポーカーで生計を立てるようになります。

 ところがアメリカの規制強化でオンラインポーカーの生態系が変わり、素人が去ってプロばかりになったことで、これまで安定して勝ってきたシルバーは、いきなり大損してしまいます。そこで彼は、メジャーリーグの打者と投手のパフォーマンスを予測するシステムを考案し、さらに、その手法を選挙に応用して、2008年の米大統領選で50州中48州の結果を正しく予測しました。これで注目されたシルバーは、「世界でもっとも影響力を持つ100人」に選ばれるなど、大きな名声を獲得することになったのです。

 シルバーは、自分の才能ではオンラインポーカーでトップになれないと思い知らされたとき、野球の統計分析にニッチを移し、そこからさらに選挙分析に活動の場を移していきました。当時、野球の世界はスカウトの勘や経験がすべてで、統計分析でコストパフォーマンスの高い選手を見つけようとする球団はほとんどありませんでした。選挙も同じで、旧態依然とした世論調査を政治評論家や政治ジャーナリストが主観で評価しているだけで、シルバーにとってはブルーオーシャン(ライバルのいない独占市場)だったのです。

「努力の限界効用の逓減」のもうひとつの特徴は、「最初の努力は大きく報われる」ことです。これをシルバーは、「2割の努力で8割のライバルに勝てる」といいます。問題は、残りの2割のライバル(プロ)に勝つために「とてつもない努力」を必要とすることですが、だったら8割の素人しかいないブルーオーシャンを探せばいいというのです。

 強者の土俵で戦うことを避け、自分の能力が優位性を持つ市場を見つけることができれば、それが成功への近道になります。とてつもない才能がなくても、とてつもない努力ができなくても、競争相手の平均を上回っていればじゅうぶんな利益(金銭的な収入と高い評価)を獲得できます。たとえ大谷翔平や藤井聡太になれなくても、自分の強みを活かせるニッチに活動の場をずらすことで、(それなりの)成功を手に入れることができるでしょう。

【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。その他の著書に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』など多数。最新刊は『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)。

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