キャリア

どれだけ努力しても「大谷翔平や藤井聡太になれない」ほぼすべての人たちへ

「1万時間の法則」は誤解だった

 心理学者のアンダース・エリクソンが、一流の音楽大学で学ぶ生徒を調査したところ、練習量や練習の仕方で学内でのランクが分かれることを発見しました。もっとも優秀な「Sランク」の学生たちは、それなりに優秀な「Aランク」や、まあまあの「Bランク」の学生に比べて、入学までにずっと長い時間練習してきただけでなく、大学に入ってからも、グループではなくより長い時間を個人練習にあてていました。

 この研究を受けて、ベストセラー作家のマルコム・グラッドウェルは、「生まれつきの天才は存在するのか?」という問いに決着がついたとして、トップに立てるかどうかは「熱心に努力するかどうか」だけだと結論づけました。これが有名な「1万時間の法則」で、誰でも1万時間練習すれば「天才」になれるというのですが、はたしてこの法則は正しいのでしょうか。

 私は、これはそもそも「因果関係が逆ではないか」と思っていました。1万時間も努力できるのは好きだからであり、好きになるのは才能があるからです。得意なことを好きになり、練習によって上達すると(周囲の評価が上がって)ますます好きになる。この好循環によって結果的に1万時間も努力できるし、グループ練習より個人練習を好むようになるのです。

 その後、アメリカの心理学者が、エリクソンと同じ条件で検証実験を行なったところ「1万時間の法則」が再現できないことが明らかになりました。SランクとAランクの学生の練習時間はほとんど同じで、両者のパフォーマンスを分ける理由は「遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っている」とされたのです。この批判を受けてエリクソンは、「1万時間の法則」はグラッドウェルの誤解だとして訂正を申し入れたそうです。

 環境要因(努力)だけでスーパーエリートが生まれるわけではないように、遺伝要因(才能)だけでも成功できない。もって生まれた才能が、努力できる環境をつくり出すのです。

 世界的なサッカー選手であるリオネル・メッシの少年時代の動画を見ると、いまとまったく同じドリブルをしていることに驚かされます。あの驚異的なテクニックは、努力だけで身につけたものではないのです。日本人でいえば、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)でMVPとなった大谷翔平選手も、史上最年少で将棋のタイトルをほぼ独占する藤井聡太6冠も、「好きなこと」「得意なこと」に集中して、とてつもない努力を重ねたことで、見事に才能を開花させたのでしょう。

 子どもに向かって、「大谷翔平や藤井聡太を目指してがんばれ」という親は多いでしょうが、残念ながら、とてつもない才能をもち、とてつもない努力ができるのは、ごく一部のひとだけです。きわめて高いレベルでライバルたちが競争し、そのほとんどが脱落していくという過酷な世界だからこそ、勝者に大きな富と名誉が与えられるのです。

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