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「このままでは日本の酪農業は壊滅する」 「牛乳余り」が直撃した酪農家の窮状と、無策すぎる政府の責任

乳製品の消費拡大をアピールする金子原二郎農林水産相(中央)ら(2021年12月。時事通信フォト)

乳製品の消費拡大をアピールする金子原二郎農林水産相(中央)ら(2021年12月。時事通信フォト)

政府は牛乳生産を減らしたいのか、増やしたいのか

 ただ、これを美談として扱ってはいけない。「牛乳余り」に際して、「牛乳を飲もう」と呼びかけるだけでは、政府は無策のそしりを免れないだろう。

 政府が本当にやるべきなのは、「牛乳の買い上げ」と「輸入の停止」と「赤字の補填」ではないか。

 もともと「牛乳余り」は政府がもたらした人災だ。政府は単に牛乳の生産量を増やすだけでなく、牛乳の需要創出、出口対策にも同時に責任を持つべきではなかったか。

 だが政府は酪農家に対して「牛乳を搾るな」「牛を処分すれば一頭あたり15万円支払う」と呼びかけた。「牛乳を増産するためなら補助金を出す」としながら、手のひらを返して「牛乳を搾るな、牛を殺せ」と言うのは、あまりにも無責任ではないか。コスト高で苦しむ酪農家をさらに苦しめ、国民の命を守る牛乳の生産基盤を削ぎ落してしまう「セルフ兵糧攻め」のようなことをやっている。これでは逆に「牛乳不足」になりかねない。

 しかも、「畜産クラスター事業」は、予算確保のために、まだ続けられているのだ。

牛乳を買いたくても我慢している人もいる

 一方、長年にわたって経済が低迷する日本には、「牛乳を買いたくてもお金がないので我慢している」人がいることも忘れてはならない。

 コロナ禍でコメや牛乳が余るというなら、政府が買い上げて、生活が苦しく、満足に食べられない人たちに提供すればよかったのではないだろうか。

 国が買い上げれば、在庫を抱えている農家や酪農家は助かる。また、フードバンクや子ども食堂などを通じて困窮世帯に配れば、非常に有効な人道支援になる。

 しかし政府はこうした政策を意固地になって拒否し続けている。「コメは備蓄用の120万トン以上は買わないと決めたので、断固できない」「乳製品はすでに一切買わないと決めている」という言い訳を繰り返すばかりだ。

 コメについては「15万トンの人道支援を表明」という報道もあった。ただ、これは15万トンのコメについて、全農などが長期保管する保管料を国が支援するという話に過ぎなかった。これが「子ども食堂」などに提供されるのは2年後。そのころには古古米になってしまっている。これが「人道支援」とは情けない限りだ。

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