大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

東京都の「大学無償化」方針への疑問 大学は「稼ぐ力」を身につける教育機関であり、行くのは自己責任

大学まで無償化する必要があるのか(イラスト/井川泰年)

大学まで無償化する必要があるのか(イラスト/井川泰年)

 東京都の小池百合子知事は2024年度から都内の高校と都立大学の授業料について、所得制限を撤廃して無償化し、私立中学校の授業料に対する年間10万円の補助も所得制限を撤廃する方針を決定した。この施策について、ビジネス・ブレークスルー大学の学長で、経営コンサルタントの大前研一氏は「大学まで無償化」することに疑義を呈する。大前氏が世界の高等教育の現状と共に問題点を指摘する。

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 もともと私は高校・大学の無償化に反対してきたが、この問題は高校と大学を分けて考えるべきだと思う。

 まず、選挙権が与えられる18歳を前にした高校3年間は大学受験のための勉強ではなく、真っ当な社会人として生きていくための教育を行なわねばならない。その目的であれば義務教育にすべきであり、したがって高校を無償化するというのであれば理解できる。

 だが、大学まで無償化するのは論旨が混乱している。大学は社会人になった時の「稼ぐ力」をつけるための教育機関であり、そこに行くのは自己責任だ。その資金がなければ奨学金を借り、稼ぐ力をつけて返済していくのが正しい高等教育の在り方だと思う。

 最近は奨学金を返済できない若者が増えているそうだが、お金は借りたら返すのが当たり前である。大学で稼ぐ力をつけていれば奨学金は返済できるはずであり、それができないのは、日本の大学では稼ぐ力をつけられないということだ。

 実際、日本の大学は未だに古い20世紀の教育を続けている。たとえば4年制大学の場合、基本的に最初の2年間は一般教養を学び、3年から4年にかけては専門課程の真似事だけで就職活動がメインになっている。だが、一般教養は高校で終え、大学は稼ぐ力をつけることに集中すべきである。

 21世紀の世界標準の大学は、旧態依然とした日本の大学とは全く別物だ。

 たとえば、私が創業した生涯教育プラットフォーム企業のAoba-BBTがパートナーシップを組んでMBAプログラムを提供しているオーストラリアのボンド大学は、4年制の固定したお仕着せカリキュラムや学生の同時入学・同時卒業といった従来の枠組みにとらわれないフレキシブルな教育を展開している。

 いま同大学で最も人気があるのはアントレプレナーシップ(起業家精神)のコースだ。何歳でも、いつでも入学できて、とりあえず3か月学びながら実際に何か新しい事業にトライし、失敗したら再入学してまた3か月チャレンジできる。

 だから「入学」「卒業」という概念がなく、入学式も卒業式もない。起業して成功するための“スキル・ブロック”をレゴのように積み上げていくというイメージで、これが現在の若者のニーズに合致しているのだ。

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