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【介護崩壊】介護報酬改定で訪問介護の弱体化は必至 仕事と介護を両立させる「ビジネスケアラー」の介護離職で経済損失は9兆円超え

 厚労省は当初、高齢社会の到来に備えて特別養護老人ホームなどの施設整備を進めた。だが、利用者の急増に追い付かず入所待機者の激増を招くと、突如として「施設介護から在宅介護へのシフト」という方針転換を図った。

 そこで打ち出されたのが「地域包括ケアシステム」であった。老後も住み慣れた地域で暮らし続けられるよう医療や介護のみならず、自治体や地域住民などの協力で24時間体制のケアを行うという構想だ。

厚労省自らが制度を否定するようなもの

 しかしながら理想と現実の乖離は大きく、十分に普及しているとは言い難い。それどころか、人口減少で地域社会の維持自体が危ぶまれるエリアが広がり、担い手不足で将来展望が描きづらくなっている。

 地域包括ケアシステムの建て直しを図らなければならない局面にあるにもかかわらず、中心的役割を担ってきた訪問介護サービスの基本報酬を下げるというのだから、厚労省が自ら地域包括ケアシステムを否定しているようなものである。

 こうした厚労省の腰が定まらぬ姿勢に対しては、医療界からも「在宅医療も訪問介護があってこそ継続し得る」(日本医師会幹部)といった戸惑いの声が上がっている。問題は介護だけに収まらない。

 今年(2024年)は団塊の世代がすべて75歳以上となる。もはや猶予はないというのに、厚労省が在宅サービスの推進に疑念を抱かせているようでは、国民の介護不安は募るばかりだ。このままでは日本は一層勢いを失うこととなる。

(了。前編から読む

【プロフィール】
河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。主な著書に、ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)などがある。

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