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【個人資産800億円】“伝説の投資家”清原達郎氏の情報収集「会社四季報とIR情報を読むだけで十分」その読み解き方

清原達郎氏が「唯一、お金を払う価値がある」と断言するのは『会社四季報』(撮影/野口博) 清原達郎氏が「唯一、お金を払う価値がある」と断言するのは『会社四季報』(撮影/野口博)

 投資熱が高まるなか、企業の経営状況や株価など投資情報へのニーズも増している。昨今は個人投資家向けの有料情報サイトが乱立しているが、個人資産800億円という伝説の投資家・清原達郎氏は「本当に必要な有料情報源は『会社四季報』のみ。あとは企業ホームページのIR(Investor Relations)情報だけで十分」と指摘する。では清原氏は会社四季報とIRをどう読み解いているのか。独自メソッドを初公開する。

「株価情報の収集にお金をかける必要はない」──そう断ずる清原氏。かつてヘッジファンド・タワー投資顧問の運用部長として旗艦ファンドを立ち上げ、2005年に発表された最後の高額納税者番付でサラリーマンとして初の1位(納税額37億円)に輝いた伝説の投資家である。

 清原氏は、2018年に咽頭がんの手術で声帯を失い、2023年に引退。3月に上梓した書籍『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)が19万部を超えるベストセラーになった。その清原氏が力説するのが情報収集のノウハウだ。

 新NISAの登場で空前の投資ブームが広がるなか、巷には「絶対に上がる注目銘柄」などの謳い文句を掲げる有料の情報サイトが乱立する。だが清原氏はそうした情報源に見向きもしない。

「有料の情報に手を出すなら、その金で株を買ったほうがいい。特になけなしの資金を投資に回す個人投資家は情報収集にできるだけお金をかけず、節約して株を買う元手を貯めることが重要です」(清原氏・以下「 」内同)

 そう力説する清原氏が「唯一、これはお金を払う価値がある」と評価するのは、『会社四季報』(東洋経済新報社)である。

「各企業の業績はもちろん、株主や役員といった基本情報から、業績予想や資本移動など投資に役立つ情報が網羅されています」

 すでに投資の第一線から引退した清原氏だが、会社四季報だけは死ぬまで解約しないと断言する。

「会社四季報以外は各企業がホームページで公開するIR情報で十分。無料なうえ、投資に有益な情報の宝庫です。基本的に会社四季報とIR情報を読むだけで株式投資はできます」

注視するポイント以外は見なくていい

 清原氏の投資メソッドは、徹底して時価総額が500億円未満の「小型株」を狙うことだ。

「規模が大きい企業ほどフォローする機関投資家やアナリストが多く、一般の個人投資家がいくら勉強しても彼らには追いつけません。しかし小型株は出来高が少なく、機関投資家やアナリストが手を出しにくい。その結果、成長が見込める企業なのに株が安く放置されているケースが多いんです。こうした割安の小型成長株を見つけることこそ、個人投資家が最も儲けられる方法です」

 この小型株を見つけるうえで、清原氏は会社四季報と企業IRを独自の目線で読み解く。

「会社四季報の『業績数字欄』や『財務欄』、『株主欄』のなかで注視するポイントがいくつかあるんです。逆に言えば、それ以外は見なくていい。企業のIR情報でも『貸借対照表』など見るべき項目が決まっています」

図解:清原達郎流『会社四季報』の読み方

清原達郎流「会社四季報」の読み方 清原達郎流「会社四季報」の読み方

【株価指標】PERには4つの倍率指標あり

「PER(株価収益率)の数字が重要です。割安小型株への投資を考えるうえで、どの程度のPERなら投資対象になるかは場合によって異なりますが、大きく言えば以下です。

【1】グローバルにニッチ市場を押さえていてマーケットシェアが高い→20倍以下
【2】マーケットシェアは高くないが優良顧客を多数抱えている→15倍以下
【3】中小不動産会社→10倍以下
【4】下請け企業で顧客数が少ない→7倍以下

 なお【4】の下請け企業はPERが低いだけでなく、ネットキャッシュ比率(財務の項参照)も1以上であることが投資対象になる最低限の条件です。上記のPERはあくまでも目安です」

*PER(株価収益率)…現在の株価が企業の利益水準に対して割高か割安かを判断する目安。PERの数値は低いほうが割安と判断される。
*ネットキャッシュ…現預金と短期保有の有価証券の合計額から有利子負債と前受金を差し引いて算出する。この数字が多いほど財務的な安全性が高いといえる。

【業績数字】二期目の数字を注視

「ここが最も重要な欄です。業績予想が二期分載っていることが肝で、私は二期目の数字を重視します。株価は今期の予想よりも来期の予想を反映しようとするので、PERは来期ベースで見たほうがいいのです」

【株価チャート、業績記事、配当】見なくてよし

「ここは見る必要がないです。特に配当やチャート欄は何時間眺めようと1円も儲かりません」

【株主・役員】創業社長や親族の株式保有を必ず確認

「誰が大株主なのかは投資に際して決定的に重要な情報です。特に私はその会社の創業社長や親族がどれだけの株式を保有しているかを必ず調べます。オーナー経営者や親族が大株主の場合、その人物が亡くなると相続人に莫大な相続税が発生し、自社株の売買で対応する可能性があるからです。こうなると株価が動きます」

【財務】自己資本比率と時価総額をチェック

「まず見るべきは自己資本比率です。自己資本比率の低い会社は財務体質改善のために公募増資などをやって株価が下がるかもしれない。中小不動産会社では自己資本比率が10%程度だと不況で倒産する可能性が高いと言えます。また時価総額も重要。私はネットキャッシュ(実質的な手元資金)を時価総額で割った『ネットキャッシュ比率』を重視します。この数字が大きいほど割安株だからです。企業IRページの決算短信にある貸借対照表と合わせて見るとより正確です」

【資本異動、株価推移ほか】公募増資があれば減点

「過去に公募増資をやっているかどうかを確認します。基本的に、公募増資をやった会社はキャッシュフロー経営ができていない、あるいはガバナンスが欠如している可能性がある。投資対象として減点項目です」

図解:清原達郎流「企業IR」の読み方

清原達郎流「企業IR」の読み方 清原達郎流「企業IR」の読み方

【決算短信】貸借対照表からネットキャッシュ比率を割り出す

「決算短信のなかで一番重要なのが『貸借対照表』です。ここを見てネットキャッシュ比率を割り出します。私はネットキャッシュを『流動資産+投資有価証券×0.7-全負債』と定義しています。ネットキャッシュを時価総額で割った数字がネットキャッシュ比率で、この数字が大きければ割安で投資対象として魅力的だと言えます

*貸借対照表…会社の資産、負債、純資産の状況を一覧できる決算書類。左側に「資産」、右側に「負債」「純資産」が並ぶ。一定時点における会社の財務状況を知ることができる。

【決算説明会資料】楽に読めるので過去数年分遡れば理解が深まる

「決算内容がグラフやビジュアルで分かりやすく説明されるので、決算短信より楽に読むことができます。決算短信は情報量が多く直近のもので十分ですが、決算説明会資料は簡単に読めるので過去3~4年分遡ってみてもいいでしょう。その会社のことがより深く理解できるかもしれません」

【有価証券報告書】見るのは経営者の年齢・経歴、オペレーティングリース程度

「私はほとんど有報(有価証券報告書)を見ません。25年間ヘッジファンドを運用してきましたが有報に目を通したのはほんの数回のみ。経営者の年齢、経歴、そしてオペレーティングリース(賃貸借取引に近いリース)の額くらいです。これは実質借金なので。基本は最新の決算短信を見れば十分です」

*オペレーティングリース…リース期間満了時の価値(残存価値)に着目し、代金からその価値を差し引いた金額を顧客がリース料として支払う契約。税務上、ファイナンスリースが「売買」として処理されるのに対し、オペレーティングリースは「賃貸借」と処理される。

【統合報告書】経営者の言葉を重視

「企業理念、事業概要のほか、社長の言葉、役員コメントは参考になります。小型株の成長性は経営者が9割だからです。その企業を成長させる強い意思を経営者が持っているか、経営者と目標を共有する優秀な部下がいるか、経営者の言動が一致しているか。このあたりのポイントを重視しますが、その他は特に見る必要はありません」

【サステナビリティ説明会/株主総会】見なくてよし

「サステナビリティ(持続可能社会を目指す活動)の欄は全て無視してよいです。最近は環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取った『ESG投資』も盛んに喧伝されていますが、ESGの欄も一切読みません。個人的に株式投資はリターンだけを目指すべきだと考えています。社会貢献がしたいのなら、投資による儲けの一部をNPO法人などに寄付すればいいだけの話です」

【プロフィール】
清原達郎(きよはら・たつろう)/1981年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業。同年、野村證券に入社、海外投資顧問室に配属。スタンフォード大学で経営学修士号(MBA)取得後、1986年に野村證券NY支店に配属。1991年、ゴールドマン・サックス証券東京支店に転職。その後モルガン・スタンレー証券、スパークス投資顧問を経て、1998年、タワー投資顧問で基幹ファンド「タワーK1ファンド」をローンチ。2005年に発表された最後の高額納税者名簿(長者番付)で全国トップに躍り出る。2023年、「タワーK1ファンド」の運用を終了し、退社。はじめての著書『わが投資術 市場は誰に微笑むか』(講談社)が話題に。

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※週刊ポスト2024年5月31日号

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