所有者不明の土地が増え、ぼろぼろになった空き家が放置されるケースも(写真:イメージマート)
団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年を迎えた。将来の日本を見据えると、人口減少、大量相続の発生、住宅需要の激減など国の骨格が変わる人口構成の大変化が控えている。その中で対策が急がれるのが「空き家問題」だ。不動産事業プロデューサー、経済・社会問題評論家の牧野知弘氏の新刊『新・空き家問題──2030年に向けての大変化』(祥伝社新書)から、九州全土の面積を上回る所有者不明土地の入り口に空き家問題が横たわる現状について分析する(同書より一部抜粋・再構成)。
放置された土地が登記もされず所有者がわからない状況に
2017年12月、民間機関である所有者不明土地問題研究会が政府に提出した報告書「所有者不明土地問題研究会 最終報告~眠れる土地を使える土地に『土地活用革命』~」(以下、報告書)は衝撃的な内容のものでした。報告書によれば全国563市町村62万筆の地籍調査を行なった結果、そのうちの約20%に相当する土地について所有者が不明であることが判明したのです。
面積に換算すると、約410万ha。どのくらいのイメージかと言えば九州全土の面積(367万㏊)を凌駕しています。研究会ではさらに、この状況を放置していると2040年にはその面積は720万㏊、北海道全土の面積(834万㏊)におよんでくることを指摘しています。
所有者が不明とはどういうことでしょうか。東京や大阪ではマンションなどの住宅が天文学的な値段に跳ね上がり、一般庶民ではとうてい手が出せないレベルになっているいっぽうで、誰が所有しているのか判明しない不動産が激増しています。
日本は長きにわたる低成長、そして人口減少、高齢化の進展を背景に、一部の地域を除いた多くのエリアで、不動産の人気がなくなってしまっています。土地に対する需要の減少は、価値の小さい、あるいはない土地を所有していることの負担感(固定資産税、相続税や管理費)のみがクローズアップされます。結果として土地の所有者や相続人が土地所有することに対する意欲を失い、土地を管理せずに放置。そのうちに相続が繰り返され、登記もされず、やがては所有者がわからない状況に陥ってしまうのです。
かつてご先祖様が住んでいた家、耕していた田畑、管理していた山林などが見放され、親族間を転々とするうちにやがて所有者不明になる。これはまさに今増え続けている空き家の行き着く先とも言えます。
所有者不明土地の増加がもたらす問題は種々にわたります。報告書では、所有者不明土地が引き起こす問題として、道路の拡張などの公共工事を行なう際に、対象となる土地の所有者全員の同意を得るのに所有者を完全に把握できない、震災復興で高台住宅を開発しようにも候補地の所有者がわからずに同意が得られない、崖崩れ防止工事を行なう際に裏山の所有者が不明で手がつけられない、などといった具体的な事例を挙げて問題の深刻さを指摘しています。