この安比校については、日本の複数のメディアが在日華僑の羅怡文氏とのつながりを指摘している。1963年生まれで、上海財経大学を卒業。1989年に来日した同氏は典型的な新華僑だ。1992年に中文書店を創業し、在日中国人向けの新聞『中文導報』を創刊。その後CS放送「楽楽チャイナ」などを手掛けた。
家電販売のラオックスが中国の蘇寧電器の傘下に入って以降は、同社長(現在は会長・CEO)として免税店にシフトする方向性を打ち出し、インバウンドの波に乗った。最近では、桐ヶ谷斎場などを運営する東京博善の親会社、廣済堂の買収をめぐって麻生太郎財務相(当時)の実家筋と競ったことが報じられた。もともと中国共産主義青年団幹部だった人物だ。
渋谷で開かれたある教育関係のイベントで、私は初代校長でハロウ安比校プロジェクト総責任者のミック・ファーリー氏を直撃した。
――安比校はラオックスの羅氏によって所有されており、羅一家が運営していると言われているが本当でしょうか? 本当だとすれば、どのようにして英国発の教育システムを堅持しているんですか?
「安比校はハロウインターナショナルによって運営されており、クオリティはハロウロンドンによって保証されている。ラオックスの羅氏は地主で、リゾート(学校周辺はリゾート地)を所有しており、我々の仕様、そしてハロウの基準に準じて学校を建てた。運営はしていない」
結局、誰が所有しているのかについては明確な説明はなかった。
この安比校には、2022年度に岩手県・八幡平市からそれぞれ1億6400万円、合計3億2800万円の補助金が、2023年度には岩手県から1億6400万円の補助金が投入されている。2022年3月に開かれた岩手県私立学校審議会議事録には、安比校の運営主体H. A. Internatinoal Schoolの設立代表者はWong Yick Ming Rosanna氏との記述がある。Wong 氏は、香港住宅委員会トップなど要職を歴任し、後に、中国の全国政協香港地区委員に選出された人物だ。
結局、どこから資金が出ており、誰が運営しているのか? ハロウ本部にメールで問い合わせてみた。担当者に何度も催促し、2カ月後にようやく回答を得た。
「ハロウスクールは、英国外にハロウブランドの学校を設立するために資金を投入することはありません。その代わり、ハロウブランド校の教育、管理、財務、その他の運営責任は、各校の所有者と運営者にあります。安比校の場合、これはアジア・インターナショナルスクール・リミテッド(AISL)にあたります」とのこと。どのように海外校の教育水準を保っているのかという質問には、「少なくとも年に2回、各学校を訪問し、品質保証に努めている」と答えてきた。
「学校が留学ビザを出せる」という利点
安比校は現在の中国人比率について、台湾や香港の出身者を含めて30%程度だと公表している。ただ、前出の学校スタッフによると、これから中国人比率は高くなっていく見通しとのことだった。実際に、このママは「50%くらいでは」と推測する。
ママに問うてみた。
――どんな中国人が通わせているんですか?
「中国人のうち、日本を拠点に生活しているのがだいたい30~40%くらいで、中国に拠点を置いているのが10~20%ほど、日中両方を行き来する人たちが残りの50%って感じですね。こういう人たちはどこにでも家を持っているので。主には上海にゆかりがある人です」
宿舎では、中国語を話す生徒もいる。だから息子が上海語を話せるようになったのだ。上海からの「潤」の動きはやはり鮮明だ。このママは語る。
「ハロウは痛点(ペインポイント)を解決したんですよ」
――どういうことですか?
「学校が子供に留学ビザを出せるんです。他の東京のインター校だと基本的にすでに日本に住んでいる人しか受験できません」