日産をV字回復させられるか(日産・エスピノーサ新社長/EPA=時事)
自動車業界を取り巻く環境は激変のさなかにある。「トランプ関税」によって大手各社の決算は減益予想を余儀なくされた。そうしたなか、窮地の日産では外国人新社長が就任した。その改革案に、かつての“カリスマ”と重なる部分を見出したのは、自動車業界を長年にわたって取材してきたジャーナリスト・井上久男氏だ。【前後編の後編。全文を読む】
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日産自動車は5月13日、経営再建計画「Re:Nissan」を発表、2027年度までに国内を含めて世界に17か所ある車両生産工場のうち7か所を閉鎖し、全従業員の15%に相当する2万人を削減することなどが柱だ。
果たして、新社長のエスピノーサ氏はゴーン氏のように日産を再生させることができるのか。この点については、26年前とは少し状況が変わってくる。別の元役員はこう語る。
「リバイバルプランの頃とは競争環境が大きく違っている。当時の競争相手は旧来の自動車メーカーだけだったが、今はEVに強いテスラなどの新興勢力のほか中国勢も台頭している。車がスマートフォン化していくなかで莫大な投資も必要になる。単独での生き残りは無理だろう」
さらに「トランプ関税」の与える影響は大きい。日産は2026年3月期通期業績の見通しを「未定」とした。通年での影響がどれほど響くか想定できないからだ。
メキシコの生産規模が大きい日産は、同国から米国に年間30万台、日本から米国にも12万台を輸出している。何も対策を打たなければ、関税の影響で4500億円の減益要因が生じる見込み。2025年4~6月期の業績見通しは2000億円の営業赤字。開発・設備投資などを行なった後に残る資金「フリーキャッシュフロー」は5500億円のマイナスとなる見通しだ。
26年前とは社員の士気の高さが違う?
さらに、2025年度中には5年前に借り入れた外貨建ての社債約1兆円のうち約6000億円の償還も迫っており、財務状況は厳しい。
対米輸出が多いトヨタ自動車の佐藤恒治社長は5月8日の決算発表時、トランプ関税について「じたばたする必要はない」と語った。トヨタがそう説明するのは、保険やサービスといったバリューチェンのなかで稼ぐ力を確実に付けてきたので、慌てる必要はないという意味からで、日産の置かれている状況は違う。
加えて筆者は、26年前と社員の士気の高さが違うように思えてならない。
今の日産、特に本社社員の生き残りにかけての士気が低いように見える。そこには組織風土の変化も影響していると見られる。ある日産関係者がこう打ち明ける。
「海外の現地法人から外国人社員の出向者を本社が多く受け入れているが、その待遇が桁外れにいい。役員でもないのに高額な年俸を払っているケースもあり、高級マンションに住まわせている人もいるという話も聞く」
こうした社員は、腰掛け的に日本で過ごして本国に戻る。日産社員からも「今の日産は外国人にしゃぶりつくされている」との声が漏れてくる。
そうしたなか、日産は人員削減のため、国内では18年ぶりに希望退職を募集する。追浜工場(横須賀市)や子会社である日産車体の湘南工場の閉鎖が検討されている。20日には横須賀を地盤とする自民党神奈川県連会長の小泉進次郎衆議院議員にエスピノーサ社長が直々に説明に出向いた。今後、希望退職が始まれば日本人を削減することへの反発も想定される。