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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

農業従事者が激減しても多大な優遇政策は温存…農水省・自民・JAの「農政トライアングル」が歪めた日本の農業の問題点 大前研一氏が提言する農政改革

「食料自給」はまやかしだ

 今回の米騒動は、農業政策・食料政策を根本から見直す好機でもある。日本には戦後から続く農水省・自民党・JAが複雑に絡み合いながら利害を共有し、時に政策を歪めてきたとされる「農政トライアングル」という構造がある。

 それがもたらす問題点は、農家に納税者負担で補助金を出して「減反」させ、コメの生産量を意図的に減らして高価格を維持しつつ、その一方で圃場整備事業(耕地区画の整備、用排水路の整備、土層改良、農道の整備など)に膨大な税金を費やし、減反しながら農地を増やすという矛盾した政策を続けてきたことである。

 結果、農業の大規模化・効率化・生産性の向上は進まず、既得権益が強いため若手農家や新規参入者が不利になって世代交代も進んでいない。実際、2024年の基幹的農業従事者の平均年齢は69.2歳で、65歳以上が79.9%を占めている。この構造を壊さなければ、日本の農業に未来はない。

 では、どうすればよいのか? まず、都道府県数の10倍以上の507(2024年4月1日時点)もある農協の集約だ。協同組合ではM&Aもままならないので、株式会社化することを検討しなければならない。

 農畜産物の販売や生産資材の供給を担当しているJA全農も株式会社化して機能別に分割し、これまで培ってきた技術と品質を武器に世界で勝負すべきである。

 そして、農政改革を断行しなければならない。その具体策は2つある。1つは、農水省を経済産業省に吸収・合併し、農業を「産業」として伸ばすことだ。もう1つは、今の農水省は需要者(消費者)のための役所ではなく、供給者のための“農民漁民省”になっているから、新たに需要者のための「食料省(胃袋省)」を設置して、世界中から安全・良質・廉価な食料を長期的・安定的に調達することだ。

 政府は「食料安全保障」と称して食料自給率(国内の食料全体の供給に対する国内生産の割合を示す指標)の向上を唱えているが、それはまやかしだ。

 日本の食料自給率(2023年度)はカロリーベースで38%である。コメは自給率100%だが、それ以外の食料は輸入頼みで、たとえば小麦は同18%、畜産物は同17%でしかない。つまり、それらの輸入が途絶えたら日本はジ・エンドであり、しょせん「食料安保」は空念仏にすぎないのだ。

 また、戦争が起きると食料自給率が低い日本は食料が枯渇すると言われるが、それ以前に石油の輸入が止まったら石油備蓄は240日しかないので、その後は経済活動全般がストップし、農機具1つ動かせなくなる。食料安保に意味はないわけで、石油やガスを輸入に頼る日本は、ただただ戦争をしなくて済む外交政策を展開するしかないのである。

 とにもかくにも、昭和の時代から進化していない怠慢な農政は速やかにオールクリアし、ゼロベースで刷新しなければならないのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2025-26』(プレジデント社)、『新版 第4の波』(小学館新書)など著書多数。

※週刊ポスト2025年6月6・13日号

『新版 第4の波』(小学館親書)

『新版 第4の波』(小学館親書)

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