5月30日、USスチールの集会で演説したトランプ大統領(AFP=時事)
日本製鉄によるUSスチール買収計画について、トランプ大統領が最終判断をくだす6月5日の期限が迫っている。トランプ氏は5月30日に行われたUSスチールの集会では日鉄を「偉大なパートナー」と述べながらも、買収承認の明言は避けている。買収計画の行方や“ディール”のあり方を専門家はどう見るのか。ノンフィクション作家の広野真嗣氏がレポートする。
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日本製鉄によるUSスチール買収計画について、トランプ大統領は5月30日、ピッツバーグで「USスチールはアメリカ企業であり続ける」と演説して成果を誇り、壇上に呼ばれた同社の労働者たちは「We got it!(やったぜ)」と答えた。
これまで日本企業による買収計画に否定的な発信を繰り返してきたトランプ氏は、バイデン前大統領が出した「買収阻止」の大統領令を破棄し、計画を承認する大統領令に署名する見通しだ。
転機は5月23日のSNSへの投稿だった。
〈長年にわたり、『USスチール』の名前は偉大さの代名詞だったが、再びそうなるだろう〉
追加投資の額をそれまでの27億ドル(約4000億円)から140億円(2兆円)へと引き上げる提案を行ったことで、日鉄は否定的だったトランプ氏を翻意させたと見られる。
ただ、投稿の2日後(25日)に、トランプ氏が記者団に「(日鉄の)部分的な所有となるが、米国が支配することになる」と述べたことも相まって、日鉄が絶対条件としてきた「完全子会社」が果たされるのか、承認の中身に注目が集まっていた。
もし、100%子会社ではなく51%以上100%未満の株式保有にとどまるなら、日鉄は、高張力鋼板(ハイテン)や電磁鋼板といった機微にふれる高度な技術情報を導入できない、と強調してきた。
逆に、完全子会社化が実現するなら、「米国が支配する」というトランプ氏の言葉の真意についても注目される。