元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏
「暴力装置」としての税務権力
この予算編成権が「アメ」であるのに対し、「ムチ」にあたるのが「税務調査」だ。
税務調査権は軍事力、警察力と並んで、国家権力の典型である。こうした国家権力は言うまでもなく強力で、政治学や社会学では軍事力や警察権力は、しばしば「暴力装置」と呼ばれる。学問の世界では税務権力は暴力装置から外されることが多いが、私は含まれていると考える立場だ。
一般的に、政治家、官僚、一般人のパワーバランスでは、「じゃんけんの関係」が成り立つといわれる。一般人は選挙があるので政治家に強い。政治家は官僚の上に立つので官僚に強い。そして、官僚は許認可の権限を持っているので一般人に強い。こうした「三すくみ」の関係になっているというわけだ。
しかし、この「じゃんけん」の“らち外”に立っているのが財務省である。そのワケは、外局の国税庁を事実上、支配下に置いているからだ。「マルサ(査察部)」を持つ国税庁の税務権力を背景に、政治家を脅すことも可能なのである。
私も大蔵・財務官僚の頃、正直、政治家を恐れたことはなかった。たとえば、税務署長時代にはこんなことがあった。
未納者に自動的に納税を促すシステムにより、ある政治家に税務署長名で納税書が発行された。すると、即座に税務署に電話があり、政治家本人がやって来たのだ。本人と会ったところ、驚いたことに「税金を納めたい」と言う。
選挙間近だったので、税金滞納と報じられるのを恐れたのだろう。私は実際のところは知らなかったし、リークするつもりもなかったが、政治家はかなり狼狽していた。政治家にとって、落選に勝る恐怖はないからだ。
これは国政でも一緒。たとえば東京国税局調査査察部長を務めた人間が、人事異動で官房長官秘書官にでもなったとしよう。長官に会うや、「前職は東京国税局で働いていました」と言えば、「内閣の要」とされる官房長官ですらビビッてしまう。もちろん言外に、「マルサの部下は私の言うことを聞きますよ」という脅しが込められているからだ。
※高橋洋一・著『財務省 バカの「壁」 最強の“増税マシーン”の闇を暴く』(祥伝社)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】
高橋洋一(たかはし・よういち)/株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授。1955 年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1 次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008 年に『さらば財務省!』(講談社)で第17 回山本七平賞を受賞。『高橋洋一のファクトチェック2025 年版』(ワック)、『明解!金融講義世界インフレ時代のお金の常識・非常識』(ソシム)、『財務省亡国論』(あさ出版)ほか著書多数。