博多駅隣にある博多バスターミナル店。商品提供のスピードが自慢だという(釜揚げ牧のうどん提供)
「オーナー企業だから思い切った経営ができる」
牧のうどんも大手の傘下に入ればさらなる成長・拡大が見込めるが、「一に賃金、二に福利厚生」という経営哲学を掲げる畑中社長は、M&Aによる拡大路線に慎重な姿勢を見せる。
「ファンドや大きな資本に身売りすればお金は手に入るのでしょうけど、今の生活で私は満足していますから……。それに身売りなんてしたらお金をかけた社員旅行ができなくなり、働く人のモチベーションが下がってしまう。結果、仕事の質も低下すると思いますよ」
昨今はコーポレートガバナンスの強化が唱えられ、創業家をトップに据える同族経営への風当たりが強いが、2代目である畑中社長は、オーナー企業にも良い面があると語る。
「それまでやってこなかった味の改変や資金運用など、オーナー企業だから思い切った経営ができる面があります。今はいろんな材料費が高騰して、本来、利益率からしたら商品を値上げすべきだけど、お客さん増えて売上も伸びて、全部ひっくるめると利益が出ているから“まあ、値上げしなくてもいいか”って。そんなどんぶり勘定の経営ができるのも、他社にはできないオーナー企業の強みだと思います」
一番人気の「肉うどん」(630円)。博多うどんの定番メニューだ(釜揚げ牧のうどん提供)
「福岡に帰ってきたら牧のうどんを食べてほしい」
畑中社長の根底にあるのは、生まれ育った故郷・糸島に対する愛情だ。福岡市の西隣にある糸島市は北に玄界灘に面した海岸線、南に脊振山系の山々が連なり、それらの中間部に田園地帯である糸島平野が広がる。2024年度後期のNHK朝ドラ『おむすび』の舞台にもなった、風光明媚な地域である。
「糸島は福岡市周辺で唯一交通アクセスが悪く、過疎地で開発されなかったため自然が残りました。今は交通アクセスが改善され、観光客が豊かな緑や青々とした海を満喫しています。周辺にプレートの裂け目や大きな断層がないので地震や津波がなく、佐賀県との県境にある脊振山系の山々によって台風が弱くなることも特徴です。大きな自然災害が起こりにくく、私は日本で最も安全な地域だと思っています」