人はなぜ不合理なことに惹かれるのか(イメージ。Getty Images)
昨今、パチンコホールの苦境が伝えられることも多いが、帝国データバンクの調査によると、パチンコ産業の2024年の総売上高は11兆7133億円。前年から5.0%増加しており、まだまだ国民の娯楽として大きな存在感を示していることがわかる。イトモス研究所所長・小倉健一氏が、稲盛和夫氏の若き日のエピソードを踏まえて、「人はなぜパチンコに惹かれるのか」を考察する。(文中敬称略)
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経営の神様と称される稲盛和夫。その哲学は厳格にして、ストイック。ビジネスリーダーたちに、高い収益とともに自己規律を求めるものとして知られる。京セラ、第二電電(現KDDI)を創業し、日本航空を再生させた手腕はあまりに有名である。禁欲的な求道者のごときイメージをまとう稲盛。パチンコという娯楽とは最も遠い場所にいる人物に思える。
しかし、ひとつの講演録が、意外な事実を伝える。1999年6月2日、盛和塾中部地区合同塾長例会で語られた若き日の出来事だ。そこには、パチンコを通じて人間の器量に開眼した青年の姿があった(以下、引用は『プレジデント』2022年12月2日号より。丸括弧内は編集部注)。
〈(稲盛の同窓の一人が)東京エレクトロンの役員をして、今でも東京エレクトロン関係の仕事をしている友人がいます。私よりも1年上ですが、ダブって私と一緒になった男です。その彼と酒を飲みながら、喋っていて思い出したのですが、彼はダブったぐらいですから、たいへんな遊び人でした。 ナンパのほうではなくて、学校に来ないでパチンコばかりしていました。私は当時、パチンコなんてしたことがない。ですから彼が、 ガリ勉である私を見かねて、パチンコに誘ってくれたことがあったのです。
「おい、稲盛さん、稲盛さん。パチンコをしたことがあるかい」
「ない」
「パチンコに連れて行くわ」
そして鹿児島で一番の繁華街にあるパチンコ屋に連れて行ってもらいました。たしか100円だったか、200円だったか、「あなたもしなさい」と私に渡してくれる。玉を一つひとつ入れて打っていた頃です。〉
〈私は、本当は行きたくなかったのです。毎日図書館で勉強をしているガリ勉ですから、遊び人である友達なんかを若干軽蔑していて、こんなだらしないことだから勉強もできないし、だから落第するのだと思っているわけです。その男が「パチンコに行こう」と誘ってきた。 断ればいいのに、断りきれないでついていった。それで、「あなたもしなさい」とお金を渡してくれた。〉