パクチーの茎を使った、エスニック風味な山形のダシと鮪の赤身(写真は「鮨 すがひさ」インスタグラムより)
まず、コース最初のつまみからして、タイ全開です。
「鱧(はも)と梅肉」は一般的な組み合わせですが、そこに合わせたのはパクチー。ほかも、レモングラスを合わせた「ウリのピクルス」、トムヤム風に仕立てた「白子豆腐」、ラープ(タイ料理の1つ)を巻いた海苔巻き……と、ことごとくタイ料理の要素で彩られていました。
サラダは、野菜とアジを生春巻きの皮で包んだもの。それが付け台に置かれると、あたかも寿司のようです。生春巻きの原料は「米」ですから、実際、寿司からそこまで遠ざかってはいないのかもしれません。
では肝心の寿司はどうでしょう。クエには、ドクダミのような風味の「バクパイ」という香味野菜のペースト、金目鯛には、ココナッツミルク香るグリーンカレーのペースト、太刀魚にはナンプラーで漬け込んだ魚卵。タイ料理でも定番食材であるエビには、トムヤム風の味付けが施されており、寿司店の主役、マグロには八角や辛子パクチーが合わされる――。
すべてにおいて「寿司ネタや酢飯のタイ食材との相性」が考え抜かれていることが感じられ、「こんな寿司は食べたことがない!」、そして「美味い!」という驚き、「なるほど!」という納得の連続でした。
寿司の常識、王道から外れた変タイ鮨は、一見、突飛ですが、すがひさの売りは、それではありません。
一見、突飛なものを、食べる側にも納得させ、唸らせるほどの説得力がある。突き抜けた探究心と発想力で、異なる食文化の共通点を見出し、両者を見事にブリッジさせたうえでのアウトプットこそ、すがひさの売りであり、変タイ鮨の魅力なのです。