ライオンとタイガー、黒ビールとステーキ
夏バテ気味の体もビールと肉で元気が出てきた
「ここ、ライオンでしょ? 昔、銀座には、タイガーって店もあったのよ」
私はケンちゃんに博識をひけらかす。以前、銀座料飲業100年史みたいな本を料飲組合の親分格の人から買ったとき、その本の中でタイガーを知った。ライオンは明治時代、タイガーは大正時代にできたカフェーだ。女給と呼ばれる人が客をもてなす店で、コーヒー中心の店もあれば、酒がメインという店もあったという。女給さんというのは、今の、ホステスさんだろうか。タイガーは美しい女性と濃厚な接客で人気だった(ここはウィキペディアの受け売り)そうだが、1935(昭和10)年には閉店している。
一方のライオンは、1911(明治44)年に築地精養軒が銀座に出したカフェーの屋号で、1931(昭和6)年に大日本麦酒(サッポロビールの前身)に経営が移った。さらにその3年後の1934(昭和9)年に大日本麦酒が現在のビヤホールライオン銀座七丁目店の場所に本社を建て、そこに、この店が入ったのだ。なんと、この建物は1945(昭和20)年の東京大空襲でも焼失を免れた。だから、今も、威風堂々たる姿を残しているのだ。
「ステーキ、食べていいですか」
私が開陳したウンチクには耳も貸さず、ケンちゃんはホール担当の女性を呼び止め、アンガスステーキを注文するのだった。
この店の名物にローストビーフがある。私はあれがたいへん好きなのだが、平日の焼き上がり時刻は午後4時半と7時というので、アンガスステーキのご相伴にあずかることにした。合わせるビールはプレミアムブラック。ケンちゃんはプレミアムアンバーを選んだ。
琥珀色に輝くプレミアムアンバー
店へ入る前までにかいた汗もすっかり引いて、ビールも2杯目。満ち足りた気分になってくる。ここで周囲を見回してみると、広いホールのテーブル席は、ほぼ埋まっている。平日の午後だから、ビジネスマンの姿はないが、私と同年配くらい(還暦前後)か、さらに上の方たち、一方では若い年齢層の奥様たちもいるし、外国人のカップル、親子連れなどの姿が見える。ざっと見まわして、外国人の比率は半分弱という感じだろうか。もっと少ないかもしれないが、アジア、欧米、中南米、いろいろな国から遊びに来ている人たちと見た。
みなさん、少人数で、ゆったりと過ごしている。きっと、この店の居心地がとてもいいのだろう。それは迎え入れる国の人間として、誇らしいし、喜ばしいことだと思う。