資産があっても使い切れなずに亡くなる高齢者は少なくない(イメージ)
世界有数の長寿国で、いまなお平均寿命が延びている日本。一方で最近は「長生きリスク」が問題視され、長く生きることによってかかる生活費や医療費への不安が大きくなっている。しかし、だからといって年を重ねてなお、お金を貯め込み、増やすだけが幸せだろうか。「安心」と引き換えに「豊かさ」を失ってはいないだろうか。後悔しないためのお金の使い方を考える。【前後編の前編】
「あのとき思い切って決断してよかったな、といまも振り返っては自分をほめたいくらいです」
都内に住む女性・Aさん(70才)は、微笑みながら話す。近藤さんの夫は昨年末に心筋梗塞で亡くなった。あまりにも突然のことだったが、思い出すのは一昨年に行った海外旅行だ。夫婦にとって最初で最後の海外への旅だった。
「テレビでクルーズ旅行の特集をしてたんです。なんの気なしにふたりで眺めていたら、夫が『これに乗ってみたいな』って。調べたら1人100万円くらいするんです。2才年上の夫はちょうど再雇用も終わって無職になったばかりで、老後のお金のことを考えようとしていた矢先になにを言ってるんだろうと思いましたが、いつになく強い口調だったので、まぁ生活はどうにかなる!と勢いで申し込みました。グアムまでの船旅はそれは素晴らしくて、船内は快適そのものだし、お友達もできて夢のような時間でした。
夫が亡くなっていちばんに思ったのは、“船に乗ってよかったね”ということ。家計を考えて諦めていたら一生後悔していました」
高齢者の多くが資産を使い切れない
2019年に金融庁が「老後は約2000万円の金融資産が必要」と試算して以降、超高齢社会が進む日本では、いかに貯め、増やすかが、議論されてきた。しかし、その貯めたお金を使い切って「ゼロで死ぬ」人は極めて少ない。
実際に、内閣府が発表した「令和6年度年次経済財政報告」によると金融資産は64才まで年齢とともに増えるが、その後は大きく減ることがない。つまり、資産を取り崩せない高齢者が多いということだ。社会保険労務士で、『ゼロ活~お金を使い切り、豊かに生きる!~』著者の井戸美枝さんが言う。
「最高裁判所が公表したデータを見ると、2023年度時点で国庫に入った遺産金は1015億円にのぼります。10年前の約3倍で、それだけお金を使い切ることなく、相続先もなく国に帰属してしまう。単身者や子供のいない人が増えている背景もありますが、あまりにももったいないことです」