「心当たりのない電話には出ない」という基本姿勢が大事
特殊詐欺の被害が増加している。警察庁によると、特殊詐欺の認知件数は前年同期比の約1.5倍の1万3213件、被害額は約2.6倍となる597.3億円だった(2025年上半期暫定値)。被害が目立つのが、「オレオレ詐欺」の手口の一つで警察官を名乗る「ニセ警察詐欺」だ。認知件数は4737件で特殊詐欺全体の約36%、被害額は389.3億円で約65%を占める。
こうした特殊詐欺の最初の接触ツールの約8割が電話だ。犯行には「+」から始まる番号の国際電話が利用されることが大部分を占めることから、警戒する必要がある。どのような手口なのか。どう対策すればいいのか。特殊詐欺やフィッシング詐欺などの対策サービスを提供するトビラシステムズ株式会社 セキュリティリサーチャー・柘植悠孝(つげゆたか)氏に聞いた。【前後編の後編】
「ニセ警察詐欺」で顕著になる20~30代の被害
さまざまな会社や組織に成りすます「オレオレ詐欺」が横行しているが、最近、特に注意が必要なのが警察を語る「ニセ警察詐欺」だ。
「通信事業者や官公庁をかたる詐欺が増えていましたが、2024年ごろからは警察官をかたる詐欺が圧倒的に増えています。最近は、最初に通信事業者や総務省、クレジットカード会社、空港の遺失物センターなどをかたる人物から『問題に対処するため警察につなぐ』などと言い、警察をかたる人物につなげるパターンも多いです」(柘植氏、以下「」内同)
こうした「ニセ警察詐欺」は、番号を偽装しているケースが少なくないという。
「番号の偽装は『スプーフィング』と呼ばれています。番号の偽装は技術的には可能ですが、日本では偽装に対する通信事業者のチェックが厳しく難しいと言われています。そのため、国際電話番号が悪用されていると考えられます。最近は、国番号以下が実在する警察署の番号と一致する番号に偽装されていたり、末尾が『0110』で終わる番号を使って警察署を装う手口がみられます」
かつて「オレオレ詐欺」といえば、息子や孫になりすます手口も多かったため、「被害者=高齢者」というイメージを持つ人も少なくないだろう。だが近年、被害者の年齢層に異変が起きている。柘植氏は「『ニセ警察詐欺』の被害者は20~30代で顕著になっています」と指摘する。
警察庁の統計を見ると、「ニセ警察詐欺」の認知件数は、30代が20.5%で最多、次いで20代が18.7%と、若い世代に被害が拡大していることがうかがえる。どのような要因からなのか。
「詐欺の手口にインターネットツールが使われるようになり、高齢者だけでなく若者もターゲットとして狙われるようになってきました。LINEなどのメッセージアプリやインターネットバンキングが使われ、犯人の足がつきにくくなっています。海外からの犯行も多いと考えられます。また、若年層は比較的インターネットツールに慣れていることから、犯人側は被害者と一度も対面せず、非接触で犯行を完結することができてしまいます」