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ビジネス
日本の農業「知られざる勝機」

冷凍食材の需要が拡大する中で懸念される輸入依存リスク 中国依存度が高い「業務用ネギ」の国産回帰に取り組む生産者の挑戦

正八の栽培品種

正八の栽培品種

国産回帰の流れを早くに予見した生産者も

 生産現場にも、国産回帰の流れを早くに予見した、息の長い取り組みがあります。「日本一安いネギ」を長年目指して生産してきた農家は、まさにそれを地で行っています。秋田県大潟(おおがた)村を拠点に、県内はもちろん、埼玉県熊谷市にも農場を持ち、110ヘクタールもの広さで生産をする有限会社正八(しょうはち)です。代表取締役の宮川正和(みやかわまさかず)さんは2012年にこの目標を掲げ、業務用ネギを作るようになりました。

 加工工場や飲食店で使われる業務用ネギは、中国産の割合が圧倒的に高いです。それなのに正八が業務用ネギに挑んだのは、国産で同じ値段のネギがあれば国産にシフトするはずだとの読みがあったからです。

「生食用と業務用では、求められる規格が違うから、規格の簡素化で中国産と値段を合わせられるんじゃないか」

 宮川さんはこう見込んで、業務用ネギの面積を年々拡大させてきました。

 注力するネギは、実は長年、作るのを避けてきた作物です。大潟村の北にある能代市で白神ネギの生産が盛んで、自分がわざわざやらなくてもと思っていました。そんな時、ネギを出荷してほしいという関係上断りづらい依頼が舞い込み、作付けを検討することになります。

 すると、ネギのほかの作物に比べた長所もわかってきました。野菜の中で一番工業的な生産ができるのです。収穫とその後の調製作業が機械化されており、今日収穫しなければダメになるというものでもありません。加えて、野菜の中では出荷期間が長くなります。多くの野菜の出荷期間が1、2カ月にしかならないなか、冬の長い秋田にあって、5カ月にもわたって出荷できるのは魅力でした。

 生産するネギは、カットネギに加工され、有名なラーメンチェーンなどに供給されます。

 コロナ禍による物流の混乱、円安、不景気……。こうした近年の不安要素は、実は国産の需要を伸ばすうえでの追い風になっています。その風を捉えて飛翔できるかどうか。農業の成長可能性はそこに懸かっているのです。

※山口亮子著『農業ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋して再構成。

第3回に続く

【プロフィール】
山口亮子(やまぐち・りょうこ)/ジャーナリスト。愛媛県出身。京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。時事通信社を経てフリーに。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。著書に『ウンコノミクス』(インターナショナル新書)、『日本一の農業県はどこか 農業の通信簿』(新潮新書)、共著に『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)、『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)などがある。日本の食と農に潜む課題をえぐり出したとして、食生活ジャーナリスト大賞ジャーナリズム部門(2023年度)受賞。

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