業務用として重宝されるむきタマネギ(イメージ)
日本の食料生産は輸入依存度が高いことで知られている。しかし、過度な依存はリスクを伴う。それが顕著に現れたのがコロナ禍で、中国からの輸入が一時的にストップしたことで価格が一気に高騰した農作物もあった。
そうしたなかで、一部農作物では国産化が進みつつある。例えば、全国2か所を拠点に広大な農場を持ち「日本一安いネギ」を長年目指して生産してきた有限会社正八(しょうはち)は、国産で同じ値段のネギがあれば、国産にシフトするはずだ――との読みをもとに、業務用ネギを作り続けている。日本の農業を取り巻く現代的な課題と可能性を、ジャーナリスト、山口亮子氏による『農業ビジネス』より、一部を抜粋して再構成。【全3回の第2回】
加工・業務用野菜の国産割合が低い理由
農水省によると、食品に占める加工・業務用の割合は、2040年には8割に達する見込みです。加工・業務用の中でも過去10年に最も成長したのが、中食(惣菜)です。その市場規模は10兆円超で、農業産出額の9.5兆円(2023年)を超えています。その成長率は外食や家庭内食を上回ります。これだけ伸びている需要を放っておく手はありません。
ところが現実には、国内の産地の多くは小売店向けの生鮮食品の需要には応えられても、加工・業務用には対応できていません。生産や流通の仕方を、需要の変化に応じて更新できていないのです。
特に野菜の国産の割合は、家庭内食用の生鮮流通だと97%ですが、加工・業務用は68%に過ぎません(2020年)。農水省は加工・業務用の国産割合が低いことを「大ロットで定時・定量・定価格の供給に対応可能な輸入野菜が増加した」ためとしています(『野菜をめぐる情勢』令和6年12月)。ロットは、出荷の最小単位をいいます。
「これからまだまだ伸びる惣菜では、国産ではなく輸入した冷凍品がかなり使われています」
こう話すのは、青果卸・株式会社彩喜(さいき)(埼玉県川口市)の取締役会長である木村幸雄(きむらゆきお)さん。青果物の流通に40年以上携わり、野菜流通カット協議会という業界団体の会長を務めています。加工・業務用野菜を国産化する動きの旗振り役です。
一例として挙げるのが、サツマイモの天ぷら。スーパーの惣菜コーナーを訪れると、必ずと言っていいほど目にします。その原料の多くが輸入された冷凍品だというのです。
「中国産のサツマイモを現地でスライスして凍らせ、それを輸入して使うことが珍しくありません」(木村さん)
冷凍品は、生鮮に比べて劣化の心配が少なく、年間を通じて安定的に調達できるため、加工・業務用の原料として好まれます。生鮮食品から、冷凍などの加工食品へと移っていくこうした需要を捉えたのは、国産よりも輸入農産物のほうでした。
特に中国産は、同じ規格の農産物を大量に作ることができ、加工賃も国内に比べて安価で、距離も近いことから重宝されています。