各窓口に電話をして事情を説明しても一筋縄ではいかない(写真:イメージマート)
いつの日か親が認知症になった時、家族が苦労するのは医療や介護の側面だけではない。本人の意思確認ができないことで、行政や金融などあらゆる面で「手続き」ができなくなるのだ。いざという時では手遅れになる、事前に済ませておくべき手続きとは何か。
都内在住の会社員A氏(50代)は、80代の父が総合病院で「軽度から中等度の認知症に移行しつつある」と診断されたことを受け、実家を処分し、父を介護付き老人ホームへの入居させることを決断した。
東京と実家がある千葉を何往復もして手続きを行ない、父の老人ホーム入居に漕ぎつけたA氏。次の課題は空き家となった実家の管理だ。まずは、毎月数千円の基本料が発生する電気・ガス・水道を停止(解約)したい。だが──。
「各窓口に電話をして事情を説明したのですが、これが一筋縄でいきませんでした。なかには『契約者本人でなければ手続きできない』という事業者もあった」(A氏)
司法書士の村山澄江氏はこう助言する。
「解約手続きは事業者によって対応が異なり、家族からの電話1本で済むケースもあれば、契約者本人の意思確認のために署名や捺印を求められる場合もあるようです。後者の場合、契約者本人との親子関係を公的に証明する『戸籍謄本』を取得のうえ『本人が施設に入居した』旨を具体的に説明すると、手続きが比較的スムーズになります」
ホーム入居に際し「テレビとDVDがあれば十分」との父の意向を受けたA氏は、続いてスマホやネットのプロバイダ契約、食料品の定期購入など不要なサービスの解約手続きを進めた。だが、その作業は困難を極めた。
「まず、親が何を契約しているかをクレジットカードの利用明細で確認しました。携帯電話やプロバイダなどの通信系に始まり、食料品の定期購入などあまりに数が多く、解約手続きがいつ終わるのかと途方に暮れました」(A氏)