退社して難関資格を取得するも、想定外の事態の連続に…
刺激の無さを退屈に感じ、その気持ちが高じたMさんは、ついに40代目前で大勝負に出る。
「昇進した先輩の挨拶を聞いていた時、ふと“何年後かにはオレが挨拶することになるのか”と思ったんです。社内は年功序列が完璧に機能していて、“○才ぐらいで係長、○才ぐらいで課長”というシステムはまず崩れない。壁際のデスクに座る上司を見て、“あれが何年後かのオレか”と思ったら、急に自分の人生が猛烈に退屈に思えてきてしまったんです。半年ぐらい悩んで妻に相談したら、あっさり『イヤなら辞めれば?』と言われたので、辞めました」
その後、Mさんは権利関係に携わる国家資格を取得し、自宅で事務所を開業する。数年間は順調で収入は右肩上がりだったが、その期間はそう長くなかった。
「独立した当初は“通勤ラッシュがない”“無駄な会議がない”“苦手な同僚と会わなくていい”と、気分爽快の日々でしたが、第一に想定外だったのはコロナ禍です。サラリーマンを辞めて国家資格で生きていくと決めた時は、あらゆるアクシデントを想定したつもりでしたが、まさか世界的に経済活動が停滞するような事態が起きるとは……。コロナ禍の2020年と2021年は売上がガクッと落ちました。
もう1つ大きかったのはAIの進歩です。私が取った資格は一般的に難関と分類されるものですが、AIの台頭は脅威の一語に尽きます。私自身も仕事でAIを使う場面はあり、現時点では便利なツールとして活用していますが、その範囲がどんどん広がり、いずれ我々の仕事は不要になるかもしれない。そこまで逃げ切れるかどうかは分かりません」
安定企業を辞める代わりに、国家資格という手堅い道を選んだが、不安は尽きない。Mさんはため息混じりにこう話す。
「堅い会社を辞める代わりに、国家資格を取って安全なルートを選んだつもりだったのに、退社して10年あまりでこのざま。きっとまだまだ想定外のことが起きるでしょう。大失敗とまでは思いたくないですが、早まったかなとは思います」
退職した会社はコロナ禍でも業績はびくともせず、株価は今や退職時の3倍にアップ。Mさんは今さらながら“寄らば大樹の陰”という言葉を噛み締めているそうだ。