巨大テックの時価総額に注目
その一方で、前述した海外の巨大テック企業はどんどん富を貯め込み、世界中で貧富の差が拡大している。この状況は、資本家が労働者から搾取していた19世紀~20世紀初めと似ている。
19世紀の経済学者カール・マルクスは著書『資本論』などで資本を社会の共有財産にして資本家から労働者に富をシフトし、階級のない「協同社会」の実現を目指すべきだと提唱した。
ならば、ここで「もし私が現代のマルクスだったら?」と仮定し、「RTOCS」の思考法で、21世紀の富の偏在という問題の解決法を考えてみたい。
現在の「第4の波」における富める企業=マグニフィセント・セブンなどは、「第2の波」時代のように資本家が労働者から搾取しているわけではない。自社の製品やサービスを利用しているユーザーから莫大なお金を集めているだけであり、従業員の給料は普通の会社よりはるかに高い。
その結果、それらの企業は株価(企業の将来得べかりし利益の現在価値)が上がって時価総額が膨れ、それを元手にM&Aなどでさらに成長して“商い無限状態”になっている。
したがって、今後はこれらの巨大テック企業から「いかにして富を収奪して再配分させるか」ということを考えなければならない。
EUは、アップルに追徴課税、グーグルに制裁金を科すなど巨大テック企業への課税を強化しているが、企業の事業規模に応じて税額を算定する「外形標準課税」のような課税方式は、もはや古いやり方である。
なぜなら、巨大テック企業のサービスは、インターネット上の仮想空間(インビジブル・コンチネント/見えない大陸)で提供されているからだ。私は25年前に上梓した『「新・資本論」―見えない経済大陸へ挑む』(東洋経済新報社)で、それまで誰も気づいていなかった「プラットフォーム戦略」という概念を提示したが、今回は巨大テック企業に対する新たな「富の再配分システム」を提案したい。
それは毎年末、あるいは毎年3月末時点の「時価総額」に課税するという方法だ。巨大テック企業は株価=将来価値を使って成長している。であれば、そこに対して課税すべきなのだ。あるいは、国に毎年数%の株を納めさせてもよいだろう。国がその株を売却すれば税金として徴収できる。
そのような仕掛けを作らなければ、ボーダレスな「見えない大陸」でグローバルに事業を展開している巨大テック企業の富を社会に再配分することはできない。
AIに取って代わられない思考力を鍛えるためには、そういう大胆な「発想の転換」が必要であり、それを可能にするのがRTOCSだ。その詳細については、今月発売された拙著『RTOCS 他人の立場に立つ発想術』を読んでいただければ幸いである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『RTOCS他人の立場に立つ発想術』(小学館)など著書多数。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号