令和7年度全国学力・学習状況調査の調査問題の一例(小学校・国語)
令和7年度全国学力・学習状況調査の調査問題の一例(小学校・国語)
国際的な学習到達度調査ではトップレベルというが…
このように学力低下は現場レベルでは「深刻だ」と判断されているが、一方でこの「深刻さ」を正面から捉えない向きもある。
全国学力学習状況調査での小中学生の学力低下が顕著になったことに対して、2025年8月1日の記者会見で文部科学大臣(当時)・阿部俊子氏はこう述べた。
「調査から推定できるのは学力の特定の一部分だけであること、また、直近の国際調査においては良好な結果だったことなどを踏まえますと、学力や格差の状況につきましてはさらに分析をすることが必要であるというふうに考えているところでございます」
「全国学力学習状況調査」の小学6年向けの国語の問題をみると、メールの短文や会話文を問題文として示し、それが読解できているかを問うている。出題の趣旨としては「目的や意図に応じて、集めた材料を分類したり関係付けたりして、伝え合う内容を検討し、自分の考えが伝わるように表現を工夫することができるかどうかをみる」とある。
これはOECD(経済協力開発機構)が実施する15歳を対象とした国際的な学習到達度調査「PISA」の読解力の問題にならったものに見える。阿部氏が言及した「直近の国際調査においては良好な結果」というのはPISAを指すのだろう。2022年の調査では、日本は、数学的リテラシーと科学的リテラシーで1位、読解力で2位と、OECD加盟国中トップレベルという結果となっている。ただ、今後、PISAの調査で日本人の読解力の順位が下がらないとしたら、それは他の国の学力低下がさらに深刻だから、といえるのではないか。
学力低下は全世界的な問題である。海外に比べて順位が高いから問題はないという発想にも疑問が残る。少なくとも、学力低下を憂う塾の現場関係者の危機感は疑いのない事実である。
また、文科省が行っている「全国学力・学習状況調査」に対して、「学力の測り方が古い」という意見も見られたが、それは問題のすり替えではないか。
「このままでは、読み書き計算ができない子が増えてしまう」との声も教育現場からは漏れる。少子化の中、1人1人の児童の学力をしっかりと伸ばしていくことこそが公立教育の使命ではないだろうか。
■前編記事:《小中学生の学力低下はなぜ起こった?》学習塾関係者も「全員受かるように作った入塾テストに不合格の子が増えている」と嘆き 背景にある“2020年の教育指導要領の変化”
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『ハナソネ』(毎日新聞社)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)、『東洋経済education×ICT』などで連載をしている。受験の「本当のこと」を伝えるべくnote(https://note.com/sugiula/)のエントリーも日々更新中。

