小中学生の学力低下を教育現場ではどう受け止めているのか
小中学生の学力が低下しているのではないかという議論が巻き起こっている。その要因として、小学校における探究学習やグループワークの拡大が指摘されているが、実際に、教育現場ではどのようなことが起きているのか。『大学受験 活動実績はゼロでいい 推薦入試の合格法』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前後編の後編。前編から読む】
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前回は小中学生の間での学力低下の原因として、小学校での探究学習やグループワークの拡大が影響しているのではないか、と指摘した。探究学習にせよ、グループワークにせよ、それは基礎知識があって成立する「応用編」だ。丁寧に基礎知識を教えて理解させてから、考えさせたり、調べ学習をさせて深掘りさせたり、グループで意見を言い合うのは素晴らしいことだ。しかし、時間は限られているから知識をしっかりと教えてから、グループワークをすることは時間的に無理なのだ。
知識を教えることを優先し、グループワークは軽くし、宿題で知識を復習させている小学校の場合、学力低下は起きにくいだろう。しかし、知識を教えることを軽くし、グループワークを優先させると、塾で知識をたたき込まれている児童はいいが、塾に通っていない児童は学力が伸びなくなっていくのは当然であろう。
「地域ガチャ」で学力に差が出る?
中堅の塾の校舎長はいう。
「公立小学校は平均的な学力の児童に合わせた授業をしていました。そのため学力が高い生徒たちは物足りないから塾に通って中学受験をするという流れだったと思います。しかし、『探究学習をグループワークでやる』となると学力が高い子が、より光輝くための授業になっています。その中で落ちこぼれないためには塾通いで知識を身につけないといけません。うちの個別指導塾は小学生も受け入れていますが、中学受験対策よりも低学年から『基礎学力をつけてほしい』と入塾してくるケースが増えています」
この校舎長だけではない。多くの個別指導の塾から低学年からの通塾が増えているという声があがっている。低学年の通塾が増えているのは、地元の小学校で知識の指導が薄く、宿題が出ない地域だ。
実際、東京の北部地域では、授業で知識教え、しっかりと宿題が出る小学校も目立っており、その学校の周辺の個別指導塾に訊くと「小学生向けの授業は中学受験のフォローがメイン」という。
つまり、「地域ガチャ」で学力に差が出る要素が強くなっているわけだ。
取材をしていると、それなりの大学を卒業している人たちの中には「高校までずっと公立で、ほぼ塾に通ったことがない」というケースも多々ある。小学校で授業を聞き、宿題をこなしていたから、学力がつき、中学では学校の勉強をしっかりやっていたので内申点が高く、高校受験はスムーズだった。公立高校は大学受験対策もやってくれるから、高校3年の秋から予備校の志望校別講座だけを受けて難関大学に合格した……これが「オール公立コース」だ。しかし、今後は状況が異なると言ってよいだろう。
