中国が日本に強硬姿勢を採る背景とは(イラスト/井川泰年)
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中の緊張状態が続く。経営コンサルタント・大前研一氏は中国政府による“高市降ろし”の動きはやまず、「年が明けても延々と続くだろう」と指摘。日中関係悪化となれば国内経済にも影響を及ぼす可能性がある。これから中国の強硬外交にどう向き合えばよいのか、新著『RTOCS 他人の立場に立つ発想術』も話題の大前氏が対応策を提言する。
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高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁で悪化した日中関係は、2026年もこじれたまま膠着化しそうな雲行きだ。
その経緯を振り返ると、高市首相は11月の衆議院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也衆議院議員が「バシー海峡(台湾・フィリピン間の海峡)が封鎖されても、日本へのエネルギーや食糧が途絶えることにはならない」として「どういう場合に存立危機事態になるのか」と質問したのに対し、「武力行使を伴うものであれば、存立危機事態になりうるケース」と答えた。
これに中国が激しく反発し、国民に日本への渡航自粛を要請したり、日本産水産物の輸入を停止したり、高市首相の国会答弁撤回を求める書簡を国連のグテーレス事務総長に送ったり、攻撃的で強硬な「戦狼外交」で圧力をかけている。さらに、沖縄本島南東の公海上空で、中国海軍の空母「遼寧」から発艦したJ-15戦闘機が、領空侵犯を監視していた航空自衛隊のF-15戦闘機にロックオン(レーダー照射)するという危険な事態も起きた。
しかし、そもそも高市首相の答弁は「もし、台湾海峡が封鎖されたら」「もし、それに介入した米軍が中国軍に攻撃されたら」という「if」の積み重ねである。
2003年に成立した「事態対処法」は存立危機事態について「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう」と定めている。そして、2015年に第3次安倍晋三内閣で成立した集団的自衛権の行使容認を柱とする「安全保障関連法」は存立危機事態が起きた場合、日本は(米軍の)後方支援と必要最小限の武力行使ができるとした。
高市首相の答弁はこれに基づいたもので、台湾有事に自衛隊が出動して中国を攻撃するという話ではなく、米軍が中国軍に攻撃されたら日本が集団的自衛権を行使して米軍の後方支援をするということである。
この答弁について、中国は「挑発的な発言」と決めつけ、「日本が台湾問題に軍事介入すると示唆」「軍国主義の復活」などと揚げ足を取って批判しているわけだが、その狙いはただ1つ。“高市降ろし”である。
もともと習近平国家主席は高市氏を警戒していた。安倍元首相に連なる保守派で、靖国神社に参拝し、先の大戦を「植民地支配と侵略」として「痛切な反省の意」「心からのお詫びの気持ち」を表明した1995年の「村山談話」も批判してきた政治家だとステレオタイプでとらえている。
中国の呉江浩駐日大使は “親中”の公明党が連立を離脱する4日前に同党の斉藤鉄夫代表の議員会館を訪れて面会しているが、私はその時に呉大使が斉藤代表に連立離脱を要請し、高市首相誕生を阻止しようとした可能性があると推測している。それほど高市氏は習近平中国にとって断固容認できない政治家なのである。
したがって今回の国会答弁を口実にした“高市降ろし”の動きはやまず、年が明けても延々と続くだろう。
