長く続いた「パンダ外交」だったが…(イラスト/井川泰年)
シャオシャオとレイレイが中国へ返還され、とうとう日本からパンダが消えた。経営コンサルタントの大前研一氏は「国益や国威発揚のためにはスポーツも動物も利用するのが中国の“伝統”」と指摘するが、中国外交をどう読み解けばよいのか。大前氏が解説する。
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日本からジャイアントパンダ(大熊猫)がいなくなった。1972年に日中国交正常化を記念し「カンカン」「ランラン」が来日して以来、初めてのことである。最後に残っていた上野動物園の「シャオシャオ」「レイレイ」の双子が1月27日に中国へ返還されると発表されて以降、別れを惜しむ人たちが同動物園に長蛇の列を作り、わざわざ成田空港へ見送りに行って涙する人や中国の空港まで出迎えに行く人も現れるなど “パンダ狂騒曲”の様相を呈した。
3年前まで日本にパンダは13頭いた。しかし、新型コロナ禍が収束した2023年から返還ラッシュが始まり、同年に上野動物園の「シャンシャン」、和歌山県白浜町・アドベンチャーワールドの「永明」「桜浜」「桃浜」が帰国した。2024年には上野動物園の「シンシン」「リーリー」が高血圧の治療のために返還され、神戸市・王子動物園の「タンタン」は同年3月末に永眠した。さらに、アドベンチャーワールドで暮らしていた「良浜」「結浜」「彩浜」「楓浜」が昨年6月に帰国し、「シャオシャオ」「レイレイ」の返還によって、ついに日本のパンダはゼロになったのである。
貸与期限はもともと日中間の協定で決まっていたことであり、私自身はパンダに何の興味もないが、現在の中国の対応には意図的なものを感じざるを得ない。なぜなら、中国側は昨年夏ごろまでは繁殖面で多くの実績がある日本とのパンダ保護協力の継続に意欲を示していたとされるからだ。
ところが、習近平政権は昨年11月以降、高市早苗首相の台湾有事発言をきっかけに日本への態度を急速に硬化させた。発言の撤回を要求し、自国民に訪日旅行の自粛を呼びかけたり、日本産水産物の輸入を停止したりする報復措置に出た。
中国はパンダの貸与を通じて相手国との関係を深める「パンダ外交」を積極的に展開している。産経新聞(1月27日付)によると、2023年に中国メディアが伝えた当局情報では、当時19か国で63頭のパンダが暮らしていた。近年では2024年12月にオーストラリアに2頭が新規貸与された。その直前に貸与期限切れで2頭が返還されていたが、悪化していた中豪関係の改善が進んだことで再び貸与に応じたという。
また、オーストラリアと同様に中国との関係改善を図る韓国の李在明大統領は1月上旬に訪中した際、習近平にパンダ1組2頭の新規貸与を直接要請し、当局間で協議が始まったと報じられている。現在、韓国では4頭のパンダが飼育されているそうだ。
一方、政治関係が悪化している日本への新規貸与は当面難しい情勢だ。中国外務省の郭嘉昆副報道局長は記者会見で、今後の貸与計画については回答を避け、「日本の人々がパンダを見に中国へ来ることを歓迎する」と述べるにとどまった。
中国が早苗ならぬ「毒苗」と揶揄する高市首相への意趣返しで嫌がらせをしているわけで、「シャオシャオ」「レイレイ」の返還に涙した人々は中国の術中にはまっているのだ。
しかし、中国がパンダを外交の“道具”として政治利用することが許されるのか、甚だ疑問である。他に動物を外交に利用している国は寡聞にして知らないし、パンダの1年間の貸与費用は一般的に1頭あたり100万ドル(約1億5700万円)もするとされている。このため、中国のパンダ外交に対しては、世界各国の動物愛護団体から批判の声が上がっている。
