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大竹聡の「昼酒御免!」

【大竹聡の昼酒御免!】「究極のセンスを感じる」フラッと遠足気分で訪れた「江の島のオーセンティック・バー」で“2打席連続マティーニ”に自問自答する春の昼下がり

来てよかったと感激するジンフィズ

来てよかったと感激するジンフィズ

早くもこれから頼む2杯が決まる

 田辺さんはゴードンのドライジンと、フランス産のエギュベルジンをベースに、ジンフィズを、いつものように念入りに、抜かりなく、うまくなれよと言い聞かせるようにしながら作ってくれた。ラタンの四角いコースターに、薄手のタンブラーが置かれた。ああ、きれいだな、うまそうだな。頭に浮かぶのはこれだけ。40余年飲んできて、物書きとしても30余年書いてきて、なんかこう、もっと言いようはないのか! と叱責されても、こればかりはしかたがない。それしか頭に浮かばないし、それで十分という気もする。きれいだな。うまそうだな。これに尽きるのだ。

 私の左手にいた先客はマティーニを飲んでいた。常連さんのようで、田辺さんとの会話も滑らかだ。私はジンフィズの最初のひと口にため息をつき、ああ、来てよかったと早くも軽く感激しつつ、私も後ほどマティーニをいただこうと心に決めた。

 右手の、カウンターの端にいたお客さんは、マンハッタンを頼んだ。すると田辺さんは、こう聞き返した。

「やさしい感じにしますか、それとも男前でいきますか?」
「あ、じゃあ、男前を」

 うん? 男前とはなんぞや? ちょっと聞き耳を立てる感じになりながら、また自分のジンフィズを一口。うん、甘さがほどよく、うまいなあ、このジンフィズ……。私の頭の中は春の陽気そのまま、実に生温かく、とりとめがない。

 カウンターの上に、マンハッタンの材料が並べられた。そこで、男前の意味がなんとなくわかった。見ると、ベースのウイスキーを2種類用意していて、ひとつは「ウィルダネス トレイル」、もう1本は「コーヴァル」。これが男前と呼ぶ理由だそうで、いずれもライウイスキーであるという。ライを2種類使ってちょっとドライな感じに仕上げるのだろうか。よし、これも後で試すとしようか……。

 まだ1杯目を飲んでいる途中で、この先に飲む2杯が決まってしまった。まあ、こういう流れがあってもいい。

 さて、2杯目は何にしようか。この店は、ウイスキーのオールドボトルも楽しめる。たとえば、ジョニウォーカーとかデュワーズなどのブレンデッドウイスキーを飲むにしても、今から40年も50年も前のボトルが出てきたりするのだ。

 古いと何が違うのか。ただ古いだけだろ、と思うなかれ。昔のウイスキーには、独特の深みや香りが残っていて、長い時間を経てなお生きているウイスキーのうまさがある。甘く、とろりとして、刺々しさの消え去った成熟の極み。そういうものに出会った晩は、ただただ嬉しい。そういうものなのだ。

 しかし、今はまだ、昼酒をスタートしたばかり。スタンダードなカクテルをしばらく続けたい。

 そこで頼んだのがダイキリだ。ホワイトラムとライムジュース、シュガーシロップをシェークしたショートカクテルで、飲み口は軽く、すっきりしている。

 足つきのグラスに注がれて私の前に出された。このグラス、ゴブレットというのかな。座りがよく、持ちやすく、美しい。いいグラスなのだ。

ダイキリは油断するとすぐに飲み干してしまいそうになる

ダイキリは油断するとすぐに飲み干してしまいそうになる

 私は、ジン、ウォッカ、テキーラ、ラム、焼酎など、透明な蒸留酒を昔から好んで飲んでいる。ラムには、樽に貯蔵して熟成したダークラムもあって、濃厚でうまいのだが、無色透明のホワイトラムは、すっきりしているのに甘みがあって、柑橘系の果汁にとてもよく合う。つまり、レモンサワー風にすると、自宅でもおいしく飲める。これはウォッカも同じだけれど、夏の暑い晩、軽く汗ばみながら飲むのもオツなものだ。

 田辺さんのダイキリは、ラム本来の甘さを感じさせる。きりっとしているのにマイルドで、あまりにも口当たりがよく、後味もやさしいので、ふた口くらいで飲み干してしまいそうだ。

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