友人もいない、年金も入らない、収入を得る手段すらない
金融広報中央委員会の調査(2022年)によると、世帯主が60歳代の世帯における金融資産保有額は平均で1819万円で、中央値は700万円。20.8%の世帯では金融資産を保有していない。一人暮らしのA氏の場合は、この20.8%に相当します。
この数字を見てゾッとしました。A氏はフリーランスとして生きてきたため、確かに不安定でした。しかし、同様の立場の方も大勢いるわけで、これからの60代が軒並み水道光熱費を払えなくなってしまったらどうなるのか……。
もっと言うと、賃貸で家賃を払えなくなったらどうなるのか。A氏の場合、親が所有するアパートがあるから住居は確保できていますが、賃貸の人も多いでしょう。そうした60代が水道光熱を止められ、家賃滞納で追い出され、人間らしい生活ができなくなった時に果たしてHELPを訴えるような場所はあるのか? A氏は友人・知人のカンパで今回は何とか乗り切り、あとは2年後の年金受給が始まるまでなんとか凌ぐ、というビジョンはあります。
これですらかなり厳しい人生なのでは、と今回6000円を貸した(というかあげた)身からすると痛感するのですが、A氏よりもさらに厳しい状況に置かれている人は、この世に多数いることでしょう。友人もいない、年金も入らない、収入を得る手段すらないという人が。年金受給前の60代の貧困問題、けっこう問題視した方がいいのではないでしょうか。若者の給料が上がっている、というのがもっぱらの定説ですが、社会全体の最適化のためには、まだ働ける60代への施策も必要だと感じました。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は稲熊均氏との共著『ウソは真実の6倍の速さで拡散する』(中日新聞社)。