最新の低侵襲手術は、高齢者でも身体への負担を抑えて受けることが可能(写真:イメージマート)
加齢とともに脊柱管が狭まり、歩行困難を招くのが「腰部脊柱管狭窄症」だが、かつては大きな切開を伴う手術が一般的だった。ところが、現在は内視鏡やカテーテルを用いた、極めて身体への負担が少ない治療法が普及しているという──。シリーズ「医心伝身プラス 名医からのアドバイス」、脊椎外科の分野で多くの手術実績を持ち、低侵襲治療の普及に尽力する東京慈恵会医科大学附属病院脊椎・脊髄センター・篠原光医師が解説する。【腰痛の原因と最新治療・後編】
患者数500万人で今後も増加が予想される「腰部脊柱管狭窄症」
腰痛のひとつである「腰部脊柱管狭窄症」は、腰の神経の通り道である脊柱管が狭くなることで、脚の痛みやしびれ、歩きにくさ、排尿障害などが起こる疾患です。国内の患者数は約500万人と推計されており、高齢化に伴い今後も増加が見込まれます。しかし、手術への恐怖心から受診をためらい、市販薬や民間療法に頼る方が少なくありません。「神経を手術で触ることで神経障害が怖い」「背中を大きく切るので術後に傷跡や痛みが残るのでは」という不安が根強いようです。
たしかに15年ほど前までは時間のかかる大きな切開を伴う手術が行なわれていましたが、現在は内視鏡やカテーテルを用いた、安全性の高い低侵襲な術式が確立され、術後の痛みも少なく入院日数も短縮しています。
軽度から中等度の腰部脊柱管狭窄症に対しては、先端が自在に曲がる構造のカテーテルを用いた「経仙骨的硬膜外神経癒着剥離術(TSCP)」を行なうことがあります。これは背骨の一番下にある仙骨の穴(仙骨裂孔)からカテーテルを挿入し、脊柱管内部に薬剤を注入するとともに、カテーテルで直接癒着をはがして症状の改善が期待される治療です。局所麻酔下で3~4ミリ程度の切開で済み、治療はX線透視下で行なうため安全性が高く、20分程度で終了します。保存療法で改善しない軽症から中等症の患者さんに加え、全身麻酔が難しい高齢者や持病のある方にも適した治療法であり、2018年から保険適用となっています。
カテーテルを使った「経仙骨的硬膜外神経癒着剥離術(TSCP)」
重症でも早期の社会復帰を可能にする腰痛手術
一方、重症化した腰部脊柱管狭窄症では、脚の痛みやしびれに加え、歩行障害や排尿障害などさまざまな症状が現われます。さらに、鎮痛剤の効果も十分に得られなくなり、日常生活に大きな支障をきたします。現在は、脊柱管狭窄症に対しても内視鏡を用いた低侵襲除圧術が普及しており、小さな傷で神経の圧迫を解除できるようになっています。一方で、脊椎の不安定性や変形を伴う重症例では、固定術が必要となる場合があります。従来、このような重症例に対する手術は、背中を大きく切開し、筋肉を広く剥離して行なう侵襲の大きな手術が主流であったため、術後の回復に長い時間を要しました。こうした負担を軽減するために普及してきたのが、「低侵襲腰椎後方椎体固定術(MIS-TLIF)」です。
小さな切開から神経の圧迫を解除した後、変性した椎間板を取り除き、そこに自家骨を充填した「ケージ」と呼ばれるインプラントを挿入します。さらに、数か所の小さな傷から「Jプローブ」と呼ばれる専用器具を用い、筋肉へのダメージを最小限に抑えながら、チタン製スクリューを経皮的に挿入して椎体を固定します。
これにより椎体間の安定性が向上し、神経の圧迫改善が期待できます。また、この術式は手術時間が比較的短く、出血も少ないため、早期からリハビリを開始しやすく、筋力低下を防ぎながら早期の社会復帰につなげることが可能です。

