まず、通勤手当は使用者が支払うものですから【1】の要件は充足します。これが【2】の労働の対償なら賃金です。労働の対償とは抽象的な表現ですが、恩恵的な支払い(例えば、使用主が任意で支払う慶弔金や見舞金など)や、使用者が支払うのが当然で、これを労働者が立て替えた場合の実費弁償的な支払い(出張旅費の実費精算など)以外が考えられ、労働者と使用者との労働関係に基づいて使用者が義務として支払うものであれば、それは労働の提供を受けるからこその支払いを約した金銭ですから、労働の対償となります。
ところで、通勤費用は労働者が労務を提供するという自分の債務を履行する目的に必要な費用です。そのため民法の原則からすると、自分で負担すべきものとなり、本来は使用者には支払い義務がないものです。それを使用者が支払う場合は契約上の義務になっているからだと考えられます。実際にも就業規則や、それに付随する賃金規程で通勤手当の支給が定められており、明確に使用者の契約上の義務になっているのが普通です。
これらの場合、通勤手当は労働の対償です。そこで通勤手当を使わずに自転車や徒歩で通勤しても、問題はありません。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2026年8月14・21日号