メインとしても、酒のつまみとしても、「エース」の存在感を放つ
ディフェンダーの哀愁とハンバーグの歓喜
時刻は、ランチの混雑時を少し過ぎたあたりで、店内はいったん空いたところだった。
どちらからともなく、話題は自然にサッカーのことになった。この日はワールドカップの準決勝、フランス対スペイン戦の翌日だったのだ。
「スペイン、強すぎましたね。あれほどとは思いませんでした」
ケンちゃんの言う通り。私の感想もまったく同じだった。実は戦前まで、前回大会に続いて今回も決勝はアルゼンチン対フランスだと読んでいた。その理由はとてもシンプルで、メッシとエムバぺの決定力が群を抜いていたからだ。フランスと準決勝を戦うスペインも、アルゼンチンと戦うイングランドもすばらしいサッカーをしていたのだが、ワールドカップもベスト4まで来ると、点を取りたいときにどんな形でも得点できるスーパースターがいるかいないかが、勝負を分ける。私には、そんな気がしていたのだ。
ところが、蓋を開けてみれば、スペインはフランスを無得点に封じ込めた。エムバぺ、デンベレという得点源にパスを供給するミッドフィールダーのオリーセに仕事をさせなかった。攻撃陣は、PKも含めてソツなく2点を取り、結果としては完勝したのだ。
「でもね、あのスペインから2点取って勝ったのは、4年前の日本なんだよね。あれからの4年間で日本はまた強くなったけど、スぺインはさらに強くなっていたね。世界とはまだまだ大きな差があると痛感させられた」
と、私が嘆くのは、今大会決勝トーナメント1回戦でブラジルに敗れたときの、日本の負け方が忘れられないからだ。攻め続けられ、防戦一方だった後半アディショナルタイムに、決勝ゴールを割られた日本。力の差は歴然としていた。
「オレ、高校時代はディフェンダーだったんだけど、それだけに、あの防戦一方のゲームの辛さが沁みてくるのよ。はあ、思い出すだに哀しみがこみあげてくる」
私は昼日中から、悔し酒モードに突入しかかり、それでは酒がまずくなると、気を取り直したのだった。そこへ、ケンちゃんが頼んだ一品が来た。
「ハンバーグ、好きなんですよ」
嬉しそうに皿を見下ろすその姿は、大ジョッキのビールのように大らかで清々しい。そうそう、神谷バーのハンバーグはうまいんだよなと、私も思わずにんまりしてしまう。そして、満を持して頼むのは、デンキブランだ。オールドスタイルの電気ブラン(アルコール度数が45度だそうです)である。こいつを生のままでキュイッと飲んで、チェイサーに生ビールを飲む。それが神谷バーにおける正当な飲み方であると、いつか誰かから教わった覚えがある。
