ストレスのない生活と収入、どちらを選ぶか?
続いてはB氏ですが、彼にはそりの合わない上司がいます。とにかくパワハラ気質で、B氏の粗探しをし、叱責をする。65歳まで働くつもりなので、残りは9年。上司は5~6年後にはいなくなるものの、そんなに待てない。そこでB氏は秘密裏に転職活動を開始します。とにかくこの上司と離れたい、このストレスから解放されたい!とばかりに活動して、その本気度が伝わったのか、同業種の会社で面接はスムーズに進みます。
B氏は内定を取れる感触を得たことで、いつかその上司に対して「私はあなたにこれまで散々な目に遭わされた。本当にストレスがあったし、あなたを恨んでいる。だが、それももう終わりだ。転職するわ!」と勧善懲悪のサラリーマンドラマのようなことを言い、辞表を出す日が来るのを楽しみにします。
そして無事内定を獲得。転職エージェントには希望する給与は伝えており、良くて数十万円上がり、悪くても数十万円下がるぐらいと見込んでのですが、蓋を開けてみたらまさかの年収200万円減……。B氏はこの瞬間、内定を辞退することにし、上司に啖呵を切る夢を諦めました。そしてこう言います。
「私はストレスのない生活と収入、どちらを取るか、で収入を選んだんですよ……。あと5~6年、200万円低い給料で働いたら1000万円以上の差になりますよね。結局、収入には勝てませんでした」(B氏)
55歳定年を間近に控えていた波平さんの幸せな会社員生活
この飲み会に来る直前、私はたまたまキャリアコンサルタントの書いたネット記事を読んでいたのですが、そこには「年収が下がってもストレスのない人生の方が幸せでいられる」なんてことが書いてありました。
その話をしたら「本当はそっちの方がいいのは分かっているのですが、今の私の経済状況だと1000万円はデカい…」とのことです。
こうして50代後半の悲哀を語り明かしていたのですが、そこで思い起こしたのが、つくづく『サザエさん』の磯野波平さんの会社員生活は幸せそうだということ。当時は55歳定年制で、波平さんは私の1つ年上の54歳という設定です。定年まであと1年という段階で、もちろん一家の大黒柱として頼りにされています。しかも磯野家は高級住宅街の部類に入る東京・桜新町に一軒家があり、妻も娘も専業主婦。55歳で定年した後は、働かずとも悠々自適の年金生活が待っているのは確実でしょう。
我々は「波平さんの時代に生まれたかった……」「私、波平さんより11歳年上まで働くうえに、あんな大きな家を建てられていませんよ……」「波平さん、超勝ち組ですね……」と、最後は波平さんへの羨望の言葉ばかりが漏れてしまいました。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)/1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『それってホントに「勝ち組」ですか? 現代格差の読み解き方』(鹿砦社)。