岐阜県東濃地方の中津川市に本社を構える「サラダコスモ」
人件費や原材料費、物流費も上昇するなか、低価格の商品を扱う企業にとって収益を確保するのは容易ではない。そんななか、一袋数十円で売られる「モヤシ」を主力にしながら、長年にわたって黒字経営を続ける地方企業がある。岐阜県中津川市に本社を置く「サラダコスモ」だ。その強さの裏には、常識にとらわれない商品開発や独自の経営哲学があった。ジャーナリストの井上久男氏がレポートする。【全3回の第1回】
競合相手は「時代の流れ」
長野県に隣接する岐阜県東濃地方の中津川市。人口約7万人のこの地方都市に、モヤシの生産・販売で国内最大手企業の「サラダコスモ」がある。主要生産品は、モヤシに加えて、発芽野菜(スプラウト)と呼ばれるカイワレ大根やブロッコリーなどの新芽。それらを大規模な「野菜工場」で大量生産している。
長野県駒ヶ根市、岐阜県養老町、兵庫県三木市、新潟県南魚沼市などに「野菜工場」があり、全国に配送されている。1日当たりのモヤシの出荷量は200グラムパック換算で約110万パック。これは日本のモヤシの1日の消費量の20%程度に相当すると見られる。
スーパーでは特売品にされることもある一袋数十円のモヤシを主力製品にしながらも2026年5月期の売上高は271億円。46期連続の黒字を達成し、経常利益率は10%近い。パートタイマーを含めて約890人の従業員を抱えている。
サラダコスモの強みは、主要生産品としてのモヤシで国内最大手でありながら、そこにとらわれない大胆な新規事業展開を続け、時代の要請に沿った新商品を次々と開発できる力にある。
2006年には、地元の名産品である栗きんとんなどを売ったり、地元の食材をふんだんに使った手作り料理をバイキング形式で提供したりする「ちこり村」を本社に併設する形で工場跡地に開業した。中央自動車道のインターがある中津川は観光客が訪れることも多い。そうした顧客を取り込むことを狙った。
なかでも最近、同社の知名度向上に寄与した新商品がある。2021年に「ちこり村」で発売した、1本2000円の高級食パン「栗きんとん生食パン」だ。栗きんとんを練り込んで焼き上げ、年間に20万本が売れるヒット商品に育った。
今春には栗きんとんと地元の牛乳を使った「栗きんとんシェイク」も新発売した。サラダコスモは、次から次に新商品を出している。その源泉は何なのか。
社長の中田智洋氏(76)は「うちが企業として最も大切にしていることの一つが、既成概念にとらわれない発想と挑戦。競合相手は同業他社ではなく時代の流れです。そうした考えが新しい商品を産む力につながっている」と説明する。
1945年創業の同社の祖業は清涼飲料水のラムネ製造だった。ラムネの販売が落ちる冬場の副業としてモヤシ生産に取り組んでいたが、1980年にモヤシ専業となり、そこからさまざまな事業に取り組み業績を拡大させてきた。
経産省幹部も「中小企業経営のお手本のようだ」
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/ジャーナリスト。1964年生まれ、福岡県出身。九州大学文学部卒業後、大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で主に自動車や電機を担当し、2004年に独立。主な著書に『自動車会社が消える日』(文春新書)、『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)などがある。
※週刊ポスト2026年9月18日号
