“モヤシ”ビジネスのさらなる可能性(写真:イメージマート)
一袋数十円で売られる「モヤシ」を主力にしながら、46期連続で黒字経営を続ける地方企業がある。岐阜県中津川市に本社を置く「サラダコスモ」だ。2026年5月期の売上高は271億円、経常利益率は10%近い。その強さの秘密はどこにあるのか。ジャーナリストの井上久男氏がレポートする。【全3回の第3回】
危機で発揮する“リカバリー力”
筆者は1995年、朝日新聞記者時代に取材で同社社長の中田智洋氏(76)と知り合った。時折、お会いすると、たとえばグローバル戦略を強化していくことなど常に将来に向けての大きな構想を語る。ある時、そうした構想はいつ生まれるのか、と聞いてみたら中田氏はこう答えた。「海外出張も多いので、飛行機の中では『内観』の時間に充てます。そこで思いついたことがあれば、手帳にメモして残しておきます」。「内観」とは仏教用語で自分の心の中を深く見つめることだ。
将来の夢をよく語る一方で、中田氏はシビアな経営感覚も忘れず、着実に足下の業績を伸ばしている。興銀などからの融資で、さらに新工場を建設して業績を拡大させた。以来、資金繰りに窮したことはないという。
しかし、次にまた危機が襲ってきた。1996年の大腸菌「O157」による食中毒だ。カイワレ大根が感染源と報じられたことで風評被害が広まり、カイワレ大根の売上高が80%落ちた。中田氏は「解雇や給料カットはしないので、この危機を乗り越えようと従業員に呼びかけました。みなが早朝から大阪や東京のスーパー店頭に出向き、カイワレの試食会を開いて安全性をアピールした。この危機が全社を一枚岩にした」と語る。
5年前のコロナ禍でも「ちこり村」の売上高が激減した。そこで、何とかリカバリーしようと生まれたのが「栗きんとん生食パン」だった。養老生産センターの新設やヒット商品の影響で、2020年からの6年間で売上高が何と100億円以上も伸びた。コロナ禍を機に経営難に陥った中小企業が多いと聞くが、サラダコスモは逆に業績を伸ばした。
そして、中田氏の夢を実現させる優秀な社員たちがサラダコスモには揃っている。田舎の中小企業なのに、と言っては失礼だが、高学歴の「仕事師」が多いように見える。前出・宮地氏は早稲田大学理工学部を卒業後、リクルートに入社したが、サラダコスモに営業に出向いたことを契機に中田氏に誘われて、1996年に転職してきた。ちこり村支配人の宮川真一氏(51)は中央大学理工学部卒。中津川市に隣接する長野県南木曽町出身で、「人とのご縁を大切にし、任せてくれて自由に働ける会社」と言う。
南米に山手線内よりも広い農地を取得
【プロフィール】
井上久男(いのうえ・ひさお)/ジャーナリスト。1964年生まれ、福岡県出身。九州大学文学部卒業後、大手電機メーカーを経て朝日新聞社に入社。経済部で主に自動車や電機を担当し、2004年に独立。主な著書に『自動車会社が消える日』(文春新書)、『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)などがある。
※週刊ポスト2026年9月18日号
