ありし日の立石・呑んべ横丁
東京・葛飾区の京成立石駅周辺が、再開発によって大きく姿を変えつつある。安く酒が飲める「せんべろの聖地」として知られ、昔ながらの酒場が密集する街並みは、立石ならではの魅力だった。しかし再開発で長年親しまれてきた店や路地は姿を消し、かつての風景を知る人にとっては寂しい変化が続いている。都内でノスタルジックな雰囲気に浸りながら酒を飲める場所はまだ残っているのか──。ライターの金子則男氏が綴る。
立石を特別な場所にしていたもの
立石の魅力は、安く飲める店が多いというだけではありませんでした。駅周辺には昔ながらの居酒屋やもつ焼き店が集まり、細い路地を歩けば、店先から焼き物の煙や香りが漂ってくる。大きな繁華街とは異なり、店と店、人と人との距離が近い。昼間から一杯楽しむ人も珍しくなく、気取らない酒場文化が日常の風景として根付いていました。
こうした街並みは、計画的に整備された飲食店街とは性格が異なります。長い時間をかけて店が増え、建物が使い継がれ、地域の暮らしと結びつくことでできあがったものです。古い街並みが失われた後に、同じ雰囲気を取り戻すのは容易ではありません。新しいビルに飲食店が入ったとしても、狭い路地に小さな店がひしめき合う空間や、そこで交わされる会話まで再現できるわけではないのです。
短期間で “跡形もなく消えた”街の数々
東京では、これまでも古い飲食店街や商店街が再開発によって姿を変えてきました。東急目黒線の武蔵小山駅周辺には、小規模な飲食店が集まる「りゅえる」と呼ばれる一角がありましたが、駅周辺の再開発に伴い、2010年代半ばに姿を消しました。
府中駅南口も、再開発によって駅前の街並みが大きく変わりました。かつての商店街や雑然とした繁華街には、現在の整った駅前空間からは想像しにくい風景がありました。週末ともなれば、競馬場帰りの呑兵衛が“祝勝会”ないしは“反省会”を行う姿が見られましたが、そうした人々を受け止めていた昔ながらの街並みも、再開発によって大きく様変わりしました。
渋谷駅から国道246号を渡った桜丘町は、古い飲食店や小規模な商店が集まり、昭和の面影を色濃く残すゾーンでしたが、大規模な再開発によって跡形もなく姿を消しました。それぞれ街の性格は異なりますが、共通しているのは、長い時間をかけて形成された街並みが、再開発によって短期間で大きく変わってしまったことです。
