大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

アベノミクスを牽引するはずの「未来投資会議」がお粗末な理由

 一つ目は政治家の劣化だ。小選挙区制になって小粒化し、外交や国全体の産業政策を担う人材がいなくなってしまった。

 二つ目は役人の劣化である。かつては欧米をモデルにしながら産業政策、福祉政策、教育政策などを主導していたが、19~20世紀の古いシステムと規制を墨守し、あまりにも歪みが大きくなったら少しだけ穴を開けたり「○○特区」のような例外を作ったりしているだけなので、21世紀の世界の変化や新しい流れについていけなくなっている。

 そして三つ目は未来投資会議のような有識者の諮問会議である。だが、それらの「有識者」の多くは、政府に近い大学教授や経団連幹部などだ。国家の重要政策を左右する組織に片手間の学者や片手間の経営者を使うのはやめてもらいたい。

 実際、時間と税金を浪費する中で、日本はどんどん世界から取り残されている。

 典型は医療制度だ。未来投資会議では健康・医療・介護サービスをテーマにした議論も行なわれているが、その中身はマイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認」の本格運用を2020年度に開始する、といった時代遅れのことばかりだ。

 いま世界で勃興しているデジタル時代の新しいサービスの大半は、アナログ時代の縦方向の法律、規制、業界秩序などをすべて取っ払い、横方向につなげないとできない。だが、日本の役所にはその発想がなく、相変わらず縦方向の許認可システムで既存業界の保護を続けている。

 金融サービスにしても、21世紀のデジタル時代はルーターで世界中とつながる時代であり、「ローカル=グローバル」だ。それは国民国家の枠組みをも超越する。だから、中国のアント・フィナンシャルはモバイルQR決済サービスの「アリペイ(Alipay=支付宝)」と信用評価システムの「ゴマ・クレジット(芝麻信用)」で一気に中国国民の個人情報を掌握したのである。

 ところが日本は、未来投資会議の議題を見れば分かるように、地銀をどう守るかに汲々としている。しかし、ローカル=グローバルの時代は世界最強の銀行が一つあれば事足りるので、地銀は存在理由がない。そもそもアベノミクスの中心的な政策であるゼロ金利の中では、銀行そのものが生存できない。

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