田代尚機のチャイナ・リサーチ

任天堂「スイッチ」中国販売、テンセントと組む意味は

 中国遊戯産業報告によれば、2019年における国内ゲーム市場の規模は2144億元(3兆3018億円相当)に達すると予想されるが、これはアメリカを超えて世界最大規模である。

 この内、62.5%がモバイルゲームであり、それ以外はほぼパソコンゲームである。専用ゲームは0.6%に過ぎない。中国当局は2000年代から、教育への悪影響を懸念して、ゲーム専用機の国内流通に規制をかけてきた。そうした経緯があったから、ゲーム会社は、年齢層の高いPC用ゲーム、スマホ用ゲームを中心に市場を開拓してきたという経緯がある。

 そうした背景はあるものの、国際的な標準から見れば、ゲームへの規制が緩和されるのは時間の問題ではないだろうか。また、eスポーツについては、当局は規制するのではなく、産業として発展育成に取り組んでいる。また、たとえ規制したとしても越境ECを通じて国内に流通してしまうのを防げないこともあり、ゲーム専用機市場が今後、シェアを拡大する可能性は高いと考えられる。

 現在、マイクロソフトの「Xbox One」やソニーの「プレイステーション 4」などが既に中国での販売権を得ているが、任天堂は「スーパーマリオ」や「ポケモン」といった世界的に人気の高いソフトを有しており、中国でも知名度がある。先行他社と比べても競争力は引けを取らない。

 任天堂はこれまで、2003年に「NINTENDO 64」 、2005年に「ニンテンドーDS」で、神遊科技と提携を結び、中国国内販売を試みたことがあったが、思うように売れず、撤退した経験がある。

 今回は世界最大のゲーム会社であるテンセントが提携先だ。テンセントは2019年9月末現在、11億5100万人のユーザーを持つ国民的なチャットアプリ「微信」を運営、アリババの支付宝と並び、国内をほぼ2分する電子決済アプリである微信支付を提供する世界最大規模のインターネットサービス会社でもある。提携先としては申し分ない。

 一方、テンセントとしては、収益の柱であるスマホゲームに対する当局の規制が強化される中で、新たな成長点を探したい。任天堂は、ハードにしても、ソフトにしても、提携先を上手く使うことで成長してきた企業である。テンセントは今後、任天堂のソフトウエア供給グループに加わる可能性もある。そうなれば、海外進出も容易になる。

 テンセントにとっても、任天堂との業務提携は大きな意味を持つことから、ニンテンドースイッチの販売を本気でサポートするだろう。両社ともすでに世界的な巨大企業であるが、今回の提携を機に、さらなる成長を見込んでいるようだ。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うTS・チャイナ・リサーチ代表。メルマガ「田代尚機のマスコミが伝えない中国経済、中国株」(https://foomii.com/00126/)、ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(http://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も展開中。

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