大前研一 「ビジネス新大陸」の歩き方

コロナ対応で露呈した日本の弱点、世界への「広報」が不在

 そもそもNHKなどのマスコミは日本の新型コロナ感染者数に、イギリスのP&O社が所有し、アメリカのプリンセス・クルーズ社が運航している大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客・乗員と武漢からのチャーター機の帰国者を含めて報道していた。しかし、これらは最初から統計を別にすべきであり、政府が世界に向けて的確な情報発信を行なわなかったことが、日本で新型コロナの感染者数が急増中という誤解につながったのである。

 このため、いまだにヨーロッパの友人たちからは見舞いのメールが届いている。すでに送り主の国のほうが感染者や死者数が日本を上回っているにもかかわらず、自分たちの国もひどい状況だが、「アジアウイルス」の“火元”の日本はさぞかし大変でしょう、といったトーンなのである。

 過去に日本政府には企業で言うところの“人事部長”がいないことが労働力不足の原因だと指摘したが、今回の新型コロナ禍で言えば、この国は“広報部長”がいないことが大問題だと思う。

 たとえば、中国には外交部の報道局長、アメリカにはホワイトハウス報道官がいて、連日のように世界に向けて自国の意見や主張を情報発信している。

 日本の場合、官房長官が政府としての公式見解などを発表する「政府報道官」の役割を担うことになっているが、グローバルな情報発信はできていない。

 外務省の対外スポークスマンである外務報道官も、同省のHPを見る限り、この非常時でも週1回の定例の記者会見で国内マスコミの番記者の質問に事務的に答えているだけである。もとより厚生労働相は国内対策で手一杯だ。

 そのほか、内閣広報官という役職もあるが、現在の長谷川榮一内閣広報官が過日の安倍晋三首相の記者会見を早々に打ち切ろうとして報道陣から抗議を浴びたことでもわかるように、首相官邸の内向きな広報活動で“司会進行係”などを担当しているにすぎない。

 つまり、今の日本政府には世界に情報を発信する広報機能がないのである。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年4月10日号

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